ビジネスの文脈において共通言語とは、組織のメンバーが、ものの見方・考え方を共有するためのキーワードのことである。
たとえばGoogleでは、社員同士が「それはユーザーのためになるのか?」と問いかけをする文化が根付いている。「それはユーザーのためになるのか?」という言葉は、まさに共通言語の典型例だ。
「それはユーザーのためになるのか?」という言葉の背後には、「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」というGoogleのフィロソフィー(哲学)が根拠になっている。
このように共通言語は、組織の価値観と密接だからこそ意味を持つ。「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」というGoogleのフィロソフィーを理解しないで外部の者が「それはユーザーのためになるのか?」と問いかけても、ほとんど効果を発揮できないだろう。
では、共通言語をつくり、組織に根付かせるにはどうすればいいのだろうか。
この記事では、読書会を通じて数多くの共通言語づくりをサポートしてきた「Dラボ」が、組織に共通言語を取り入れるメリットを紹介するとともに、実際に共通言語を使って成果をあげる方法について解説する。
「共通言語はなくても組織が回っている」という方も、ぜひ読んでほしい内容となっている。なぜなら共通言語が行き渡っていない組織は、いまは大丈夫に思えても、トラブルや困難に見舞われたときに、最善の意思決定ができなくなるからだ。
共通言語は、どの立場や役職でも、社長と同じ目線で意思決定を行えるようになる北極星の役割を果たす。共通言語がない組織は、社長の指示がなければ何もできない受け身の社員を増やすだけだ。ぜひ、この記事を読んで、共通言語を取り入れてほしい。記事の終盤では、実際に共通言語を取り入れて成功した事例を紹介しているので、そちらも要チェックだ。
共通言語を取り入れた札幌市交通局の事例目次
組織に共通言語を取り入れるメリット
世界の一流企業がそうであるように、現代の企業は、大中小に限らず、みな共通言語を取り入れるべきだ。では実際に、共通言語を取り入れると、何が変わるのだろうか。3つのメリットから整理した。
①一人ひとりの意思決定に一貫性が生まれる
意思決定には葛藤がつきものだ。ビジネスでは、正解のない問題に正解を生み出す勇気が求められる。その勇気を支えるのは、組織が大切にするフィロソフィー、つまり価値観だ。共通言語は、組織の価値観を体現している。共通言語を徹底すれば、社員一人ひとりが、筋の通った意思決定を行えるようになる。
たとえば、「働きたい全米ベスト10」に毎年ランクインする「エドワード・ジョーンズ」は、利益目的の顧客ではなく、たとえ財産が少なくても資産を守りたい顧客に寄り添う証券会社である。エドワード・ジョーンズの共通言語は「投機的な利潤を求める顧客にはノーと言う」ことだった。この会社が300店舗から9000店舗にまで拡大できたのも、共通言語を徹底したからだ。
②コミュニケーションが円滑に進む
共通言語があれば、多くの言葉を交わさなくても、最短距離で本質に行きつくことができる。ようするに「話が早い!」というわけである。
もしGoogleが「それはユーザーのためになるのか?」を共通言語にしなければ、一体どうなっていただろう。もともとクリエイティブな人たちが集まる組織だから、みんな好き勝手にアイデアを出して、好き勝手に仕事をしていたかもしれない。コミュニケーションなんて、ほとんど成立しないのではないだろうか。
国も人種も性別も言葉も異なる者同士が集まる組織において、共通言語は人々を正しい道に導く北極星だ。「こんなとき、どうすればいい?」という課題に直面したとき、「それはユーザーのためになるのか?」というたった一つの問いが、正しい意思決定をもたらしてくれる。出てくるアイデアは異なるかもしれないが、みな、正しい方向を向いている。共通言語という名の北極星を、しっかり見据えることができる。それがまさに共通言語のメリットである。
③経営者と一般従業員が同じ目線になれる
役職や立場の垣根を取り払ってくれるのも、共通言語の大きなメリットだ。組織の価値観は、社長の価値観でもある。すなわち、共通言語は、社長の頭の中にあるフィロソフィーを結晶化したものなのだ。共通言語を一般従業員レベルにまで浸透させることができれば、社長のものの見方・考え方が、組織の隅々にまでいきわたる。共通言語を媒介に、社長と従業員が円滑にコミュニケーションをとれるようにもなるだろう。
また共通言語は、次期社長を育てる際にも役立つ。「こういうときはこう考えるんだ」とゼロからイチまで教えるよりも、共通言語のフレームに沿って指導すれば、瞬時に本質が伝わるようになる。
共通言語のつくり方
共通言語の根本は、なんといっても組織のフィロソフィー(哲学)だ。道徳的にすぐれた価値観こそ、人を正しい方向に導く。共通言語をつくるなら、組織の命ともいえる価値観を大切にしなければならない。
①組織の使命(ミッション)を明確にする
まずは組織の存在意義を考えていこう。使命(ミッション)は、その組織が社会に存在する根本的な理由と密接に関わる。「この使命から逸脱する意思決定をするくらいなら、組織を解散する」くらいの気持ちで取り組もう。組織の使命こそ、共通言語のルーツである。
②意思決定する上でやってはいけないことを挙げる
組織の使命を定義したら、「たとえ儲かるとわかっていても行うべきではない意思決定とは何か」を考えよう。
たとえばGoogleなら、「高額入札の順に検索順位をあげる」とは考えない。なぜなら、お金さえ出せば検索1位になれるなら、「それはユーザーのためになるのか?」というコアバリューから大きく逸脱することになるからだ。
では、あなたの会社にとって、組織の使命から外れてしまう意思決定は? そこから共通言語の輪郭が見えてくる。
③組織として一貫するべき精神態度を言語化する
②のステップをしっかりこなせば、あとは自然に共通言語が浮かび上がってくるはずだ。どんな困難な状況でも、勇気をもって意思決定できる北極星。それが共通言語だ。共通言語が浸透してはじめて、組織の絆が芽生え、連帯感が生まれる。
ビジネス書から共通言語を探すことも可能
「これだ!」という共通言語をつくれない場合は、ビジネス書から参考になる概念や言葉を探してみよう。わたしたちDラボは、ピーター・F・ドラッカーの読書会を開催しているので、ドラッカーの言葉を会社に取り入れている参加者もたくさんいる。
たとえば、「われわれのミッションは何か?」「われわれの顧客は誰か?」「顧客にとっての価値は何か?」「われわれにとっての成果は何か?」は、ドラッカーの有名な問いかけである。この問いかけを共通言語に、日々仕事で成果をあげている人々がいる。ゼロから共通言語をつくるのが大変なときは、このドラッカーの言葉を使ってみるのもいいだろう。
はじめて読むドラッカー読書会共通言語を組織に根付かせる方法
共通言語はつくって終わりではない。共通言語を実際に使ってこそ意味がある。社長室の額縁に飾られて誰からも顧みられなくなったとき、共通言語は死んだ言葉となる。
共通言語は、あくまでも成果をあげるための道具である。本当に大事なのは、組織のメンバーに共通言語を根付かせることである。以下にその具体的な方法を示した。共通言語は、繰り返し繰り返し、何度も意識しなければ、なかなか根付かせることはできない。どちらのケースにおいても、根気が必要である。
朝礼で共通言語を確認する
多数の人と共通言語をシェアしたい場合に有効である。社員手帳に共通言語を記しておくと、朝礼で確認しやすい。
1on1ミーティングで確認し合う
共通言語をベースに、上司が部下の日々の仕事についてフィードバックすることもできる。共通言語を尺度にすれば、部下の意思決定の質を評価しやすくなるだろう。
みんなで読書会を行う
たとえばドラッカーの言葉を共通言語にするなら、みんなでドラッカーの本を読み合ったほうが、浸透させやすい。つまり読書会である。札幌市交通局で約700人の職員の士気を高め、成果をあげた田畑部長(2014年当時)は、実際にドラッカーの読書会で共通言語を得ることができたという。
やや長くなるが、田畑部長の言葉を引用しよう。
実際のインタビュー記事私達の目標の一つに、輸送人員を地下鉄60万人、路面電車2.5万人にしたい、ということがあるのですが、その前提として「安全があってはじめて」という基本があります。その上で、駅員が親切だとか、笑顔のあいさつがあるといった付随する価値があります。これらすべてをひっくるめて、ドラッカーのいう「顧客の創造」つまり利用者にとっての価値を生み出すことを事業のコンセプトに据えています。
こういった職場の土壌形成にあたり、読書会を通じて「共通言語」ができ、ベクトルが一致したことが非常によかったことですね。強みを活かす、貢献を重視するなど職場の価値観が共有されることで仕事がやりやすくなりました。
例えば、会議などの意思決定の最後には、「これはドラッカーの原理原則に反してないか?」という議論でチェックが始まるんです(笑)。そういう思考回路や職場風土が醸成されてきました。
Dラボは読書会のプロ集団
わたしたちDラボは、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーの読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
読書会ではアウトプットをとても大事にしている。実際にわたしたちは、この読書会を通じて、「これまで主体性のなかった社員が自発的に提案をしてくれるようになった」「経営者目線で事業のことを真剣に考えてくれるようになった」という事例をたくさんみてきた。
経営に活かした事例ドラッカーの読書会は、経営者と社員が同じ問題意識をもち、同じ目線で学びあえる貴重な機会だ。
もしあなたが、共通言語づくりだけでなく、「リーダーシップを発揮できない」「人材育成がうまくいかない」「人材が定着しない」「売上が伸びない」「事業の将来に不安がある」「相談相手がいない」と悩んでいるなら、ぜひ一度、社員と一緒に読書会に来てほしい。無料体験も実施中だ。オンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会にもなるだろう。
はじめて読むドラッカー読書会まとめ
組織に共通言語を取り入れるメリット
- 一人ひとりの意思決定に一貫性が生まれる
- コミュニケーションが円滑に進む
- 経営者と一般従業員が同じ目線になれる
共通言語のつくり方
- 発見力に優れた人
- 実行力に優れた人
- 組織として一貫するべき精神態度を言語化する
ビジネス書から共通言語を探すことも可能
- 「これだ!」という共通言語をつくれない場合は、ビジネス書から参考になる概念や言葉を探してみよう。
共通言語を組織に根付かせる方法
- 朝礼で共通言語を確認する
- 1on1ミーティングで確認し合う
- みんなで読書会を行う
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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