ハニカムチャート:「その言葉、意味を共有できていますか?」世界観を客観視して違いを相互理解するコミュニケーションツール

ハニカムチャート:「その言葉、意味を共有できていますか?」世界観を客観視して違いを相互理解するコミュニケーションツール

2024年8月某日、サイボウズ東京オフィスで「EMS DAYS」(第1回本質行動学学会)が開催されました。

そこでマネジメントの新ツール「ハニカムチャート」(特許申請中)がワークショップで提供され、参加者はのべ30名をこえ、予想以上に盛り上がりました。

ハニカムチャートは、わたしたちが当たり前のように使っている「言葉」の意味を客観視するツールです。

たとえば「仕事」という言葉にどのような意味づけをしているのかは、その人のこれまでの人生経験や社会環境に影響されます。

その違いを認識することは、相互理解につながるだけでなく、組織のコミュニケーションをよりよくするうえで役立ちます。

では具体的に、ハニカムチャートはどのような使い方をすればよいのでしょうか?またどんな場面で意義があるのでしょうか?

そこでこの記事では、ハニカムチャートの開発に携わった佐藤等氏にインタビューを行い、このツールの可能性について掘り下げてみました。

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インタビュイー:佐藤等

佐藤等さん

アウル税理士法人代表、公認会計士・税理士、NPO法人ドラッカー学会共同代表理事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会として「実践するマネジメント読書会」の創設者。『実践するドラッカー [思考編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズ計5冊は20万部を超えるロングセラー。ほかに『ドラッカーを読んだら会社が変わった』『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(日経BP社)、『ドラッカーに学ぶ人間学』(致知出版社)がある。

ハニカムチャートは「概念」を説明するツールとして生まれた

――さっそくですが、特許申請中の「ハニカムチャート」はどのようにして誕生したのでしょうか?

そもそものきっかけは、とある講座でした。「EDM」という講座で、講師をしている際に「概念」を説明するツールとして偶然生まれたのがきっかけです。

EDM(エッセンシャル・ドラッカー・マネジメント実践コース)は、EMS(エッセンシャル・マネジメント・サイエンス:本質行動学)を普及する講座の一つとして、本質行動学とドラッカー・マネジメントを新結合させて生まれた世界初の講座です。

たとえば「マネジメントとは」という問いから、様々に言葉をつなげていくことで、その人がその言葉にどんな意味・印象を持っているのかを客観視できる。ただし、唯一正しいハニカムはない。一人ひとり、ハニカムに個性がでるのが特徴だ。

――はじめてみたときは、「マンダラチャート」の発展版という印象を受けました。

実は違います。私もマンダラチャートはライフプランニングや目標管理で使用しますが、ハニカムチャートは用途がまったく異なるのです。

マンダラチャートとは、目標達成やアイデア出しなど、様々な場面で活用できる思考整理ツールです。基本的に3×3の9つのマス目に、中心に目標を置き、周囲に関連するキーワードやアイデアを書き込んでいきます。9つのマス目に視覚的に情報を整理することで、全体像を把握しやすくなります。大谷翔平選手が実践していたことで知られています。

※わたしたちDラボは、マンダラチャートを使った人生&ビジネスのプランニング講座も行っています。ご興味があればお気軽にご相談ください※

一般社団法人マンダラチャート協会より引用。

言葉は他の言葉と関係しあうことで「概念」となる

――ハニカムチャートは「概念」を説明するツールということですが、具体的にどのように使うのですか?

言葉というのは、他の言葉との関係のなかで意味をもちます。言葉と言葉が関係し合い、一つの「概念」(コンセプト)を生み出すわけです。

「富士山」という言葉には、「日本一」「静岡」「山梨」「河口湖」「逆さ富士」「東海道新幹線」……といった他の言葉が関係し合って、「富士山」の概念を生成しています。言葉というのは、関係概念なのです。

ビジネスの現場で使われる言葉も、当然、関係概念です。

たとえば「成果」という言葉。一般的な文脈で捉えると、「利益」「目標」という言葉が連想されますよね。「利益」「目標」という言葉が関係し合うことで、「成果」の概念(コンセプト)がもたらされるわけです。

他にも「成果」という言葉から想起される言葉をつなげていくと、上図のようになります。

同じ言葉なのに、みんな意味が違う

――これらの言葉が関係し合うことで、「成果」という概念(コンセプト)が規定されていくわけですね。

はい。しかしここで大切なのは、想起する言葉が人によって違うという点です。

たとえば、“マネジメントの父”ことピーター・ドラッカーの使う「成果」という言葉の関係概念は、先ほどのものとはまったく違う様相を呈します。

以下は、ドラッカーを学んでいる人が実際に示した「成果」の関係概念です。

――同じ「成果」という言葉なのに、世界観が全然違いますね。

そうですね。「成果」「せいか」「SEIKA」。

同じ音・同じ発音を使っているはずなのに、使う人によって異なる関心があり、異なる意味が生まれ、それゆえに異なる現実を見ていることになりますよね。

「概念」を客観視することでコミュニケーションを改善できる

――同じ言葉なのに、人それぞれ意味や関心が異なっている……ハニカムチャートを使えば、その違いに気づくことができますね。

いうなればハニカムチャートは、概念(コンセプト)を客観視するツールだといえるでしょう。

普段わたしたちは、自分の使う言葉の意味が、相手にも伝わっているはずだという暗黙の前提でコミュニケーションをとっています。しかしそれが大きな摩擦を生んでいる可能性があります。

たとえば、さきほどの「成果」という概念(コンセプト)。

想像してみてください。こんなにも簡単そうな言葉なのに、まったく世界観が違いますよね。それに気づかずに「成果」という言葉を仕事上のコミュニケーションで使うとどうなるか……。

――一人ひとりの意思決定や行動に大きな影響がでるかもしれませんね。

そうです。社長が「成果を最優先に考えよう」と言ったとき、「成果=カネ」と考える人と、「成果=顧客への貢献」と考える人は、それぞれまったく違う意思決定を行うことになるでしょう。

しかもみんな、自分が間違っているとは思っていないし、一生懸命にやる。そんな中で社長に「そんなことは期待していない」と言われてしまうと、組織への不信感やモチベーション低下につながります。

人間というのは、生き方・考え方・価値観・世界観・関心が違うのです。

これらは、その人の過去の経験によって作られます。同じ経験を持つ人はいないので、基本的に考え方や価値観は異なります。だから普段使っている概念(コンセプト)の意味も違って当たり前です。

しかし組織のなかで概念(コンセプト)が異なる、すなわち言葉の意味が異なると、色んな問題が生じてくる。

致命的ともいえるコミュニケーションギャップが生まれ、マネジメントが機能しなくなる。

正直、これは盲点でした。ハニカムチャートを使うたびに痛感します。

概念(コンセプト)の客観視は、知識労働者の生産性を大きく左右するとさえ言えるでしょう。

ハニカムチャートは、色んな価値観を持つ人が、お互いを活かし合い、共に成果をあげるためのツール

――概念(コンセプト)を客観視することによって、管理職と部下のコミュニケーションの齟齬をなくせるかもしれませんね。

ハニカムチャートを使うと、マネジメントで大切な原理原則が実感として理解できるので面白いですね。

そもそもマネジメントは、多様な価値観を持つ人々の存在を肯定したうえで成果をあげるための“道具”です。

大前提として、マネジメントは「人それぞれ価値観が違う」ということから出発しなければなりません。

なぜなら組織は、自立した個人が生き生きと働くことで成果をあげる場所でなくてはならないからです。「一つの価値観しか受け入れない」ような組織はやがて全体主義化(専制化)し、弱体化してしまいます。

色んな価値観を持つ人が、お互いを活かし合い、共に成果をあげる。それこそが組織です。

だからこそ、組織内で使う言葉、すなわち概念(コンセプト)の一致がきわめて重要になってきます。組織内で使う言葉は、他者と他者を結ぶ情報であり、意思決定や行動を促す道具でもあります。

――そうかもしれません。多様な価値観を持つ人々が、まったく解釈の異なる概念(コンセプト)を使って仕事をするとどうなるか……。

当然、組織は混乱するでしょう。概念(コンセプト)の不一致は、仕事の仕方、目標設定のハードル、成果の追求姿勢、努力の差となってあらわれます。

組織内で概念(コンセプト)を一致させるということは、働く人々の足並みを揃え、一丸となって組織が向かうべきベクトルを合わせる第一歩です。

組織内で特有の言葉の使い方・文化があるなら、なおのこと概念(コンセプト)の客観視は必要になってくるでしょう。

言葉の意味を客観視して成果をあげることは重要なマネジメントスキル

――ハニカムチャートがこんなにも「言葉」について考えさせられるとは思いませんでした。

少し前からわたしは、言語哲学の大家であるフェルディナンド・ソシュールを学んでいるのですが、ソシュールは「ラング」(laungue)と「ランガージュ」(langage)を区別しています。

「ラング」は言葉そのもの、一般通念として共有されている言葉のことです。一方で「ランガージュ」は、言葉を使うことそれ自体、あるいはその能力を指します。

ハニカムチャートを通じて概念(コンセプト)のズレを理解し、使う言葉を客観視し、成果のために用いることは、まさにランガージュであり、重要なマネジメントスキルと言えるでしょう。

――実際に使った人たちの反応はどうでしたか?

今年(2024)の夏、サイボウズ株式会社のオフィスでハニカムチャートのワークショップを開催しました。

思いのほか、参加者たちは面白がって使ってくれましたね。脳内にある概念(コンセプト)情報を外に出す機会はなかなかないですから、新鮮だったのかもしれません。

こちらが想定していた以上に反応があって、どんどんハニカムをつなげている人がいたのも印象的でした。ハニカムチャートは、直感的な操作性に優れているのだなと感じました。

ハニカムチャートはアイデア出しに向いていない?

――ハニカムチャートは他の使い方はできるでしょうか?たとえばアイデア出しとか。

色々試しているところですが、いまのところ、アイデア出しにはあまり向いていないかもしれません。

あくまでもハニカムチャートの強みは、言葉の周辺にある他の言葉を2次元的にどんどん拡大していける点です。そして弱点は、“深さ”を出せないところです。

やはりアイデア出しは、王道のマインドマップがいいと思います。私も実際、アイデアを出したり、物事を関連づけたりするときは、マインドマップを使っています。

マインドマップは、一つの言葉から思い浮かぶ新しいアイデアや、突飛な思考を野放図につなげて、独自のツリーをつくりあげることができます。どんどん“深さ”を出していけるのは、マインドマップならではの強みですね。

やはりハニカムチャートは、言葉と言葉の関係性を客観視することに特化したツールなのかもしれません。

ハニカムチャートはコミュニケーションを必要とする知識労働者に使ってほしい

――ありがとうございます。最後に、ハニカムチャートは、どんな人に使ってほしいですか?

ハニカムチャートは、組織・事業・仕事などの目に見えない「コト」に関する概念を伝えて共有していくツールです。つまり知識労働において重要なツールです。

知識労働では、目に見えない「コト」が成果を大きく左右します。

ですから、コミュニケーションを必要とするすべての知識労働者に使っていただきたいです。そして、コミュニケーションに不可欠なツールとして育ってほしいと思います。

あらためてハニカムチャートの特徴を整理すると、以下に整理できます。

  1. 同じ言葉でも人それぞれ意味が異なることを実感できる
  2. 言葉を客観視することで新しい気づきや発見が得られる
  3. 自分にはなかった概念(コンセプト)を獲得することで視点が増える
  4. 多様な価値観を肯定しつつもベクトルを揃えられる
  5. コミュニケーションの摩擦リスクを減らせる

言葉の意味を揃えることは、組織が成果をあげるための重要なマネジメントスキルだといえます。このハニカムチャートがマネジメントを学ぶ突破口になってくれたら嬉しいですね。

ハニカムチャートはまだまだ発展途中です。色んな人に試してもらって、可能性をひろげていきたいですね。

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