ドラッカー「顧客の創造」を事例付きで徹底的にわかりやすく解説

数あるピーター・ドラッカー用語のなかでも、「顧客の創造」( to create a customer)は非常によく知られている。しかし、「顧客の創造」の意味をしっかり理解できている人は、そう多くはないかもしれない。

なぜなら「顧客の創造」は、一見するとわかりやすい言葉だからだ。そこには間違った解釈の余地が生まれやすく、また、サッと読んでわかった気になりがちである。

もしあなたが、「顧客の創造」を「営業でお客さんを増やすこと」「新規顧客リストをつくること」と解釈しているのなら、残念ながら間違っている。

端的にいうと、ドラッカーのいう「顧客の創造」とは、【消費者にとっての価値は何なのかを掘り下げ、消費者の欲求を満たす手段として製品やサービスを提供すること】である。

なんだ、そんなことかーーと、がっかりしただろうか?

たしかに、特別なことは何一つ言っていない。だが、果たして「顧客の創造」を実践できている企業がどれだけあるだろうか。

たとえば、ドラッカーファンで知られるユニクロ創業者の柳井氏は、「顧客の創造」を実践した経営者の一人だ。服をファッションの部品と考え、ユニクロを「パーツカンパニー」と定義し、最高品質の服を低価格で提供することをミッションと考えた柳井氏の発想は、まさに「顧客の創造」のお手本である。

では、ここで問題をひとつ。以下は、実際に「顧客の創造」を実践し、大きな成果を残した有名企業の事例である。

なぜ彼らが一流企業へと成長できたのか。【消費者にとっての価値は何なのかを掘り下げ、消費者の欲求を満たす手段として製品やサービスを提供する】という「顧客の創造」の発想に立脚して考えてみてほしい。

  • なぜ、コンピューターの技術や知識がなかったIBMが、並み居るライバルを押しのけて市場を席捲することができたのか。
  • なぜ、世界恐慌で倒産寸前だったGMが、キャデラック事業で大躍進を遂げたのか。
  • なぜ、エドワード・ジョーンズは、リーマンショックでもリストラをせずに黒字経営を維持することができたのか。
  • なぜ、ソニーは完全にアウェイ状態だったアメリカでラジオ市場でトップをとることができたのか。

どうだろうか?もしあなたが、少しでも「なぜだろう」と不思議に思ったなら、「顧客の創造」の意味を真に理解するチャンスである。

今回の記事では、ドラッカーの「顧客の創造」を正しく理解し、ビジネスの現場で実践するためのハウツーを、事例を交えながらガッチリと解説する。

この記事を読めば、ドラッカーの金言からマーケティングの大いなるヒントを得ることができるはずだ。新規開拓に悩んでいる方や、これからの事業の方向性に迷っている方は、ぜひ読んでほしい。

顧客の創造とは「顧客が求めているコト・モノから事業をスタートする」こと

要点がすぐわかるQ&A
  • Q:顧客の創造をわかりやすくいうと?
  • A:「企業が売りたいものを売る」のではなく、「顧客が買いたいものを売る」こと。
  • Q:なぜ企業が売りたいものを売ったらダメなの?
  • A:顧客は製品ではなく、自分の欲求(価値)を満たすことにしか関心がないから。
  • Q:企業が顧客の創造を行うにはどうすればいいの?
  • A:「顧客にとっての価値は何か」を問い続け、「われわれの事業は何か」を定義する。詳しくは後述。

顧客の創造の事例

後発のIBMがコンピューター市場を席巻

  • もともとコンピューター事業は得意ではなく、「パンチカード」(※厚紙に穴を空けてデータ処理するもの)がメイン商材だった。
  • しかし「顧客は誰か。顧客にとっての価値は何か。顧客はどのように買うか。顧客に必要なものは何か」を考えぬき、ついにはコンピューター市場を席巻するまでに成長した。
  • IBMは、コンピューターを売り込む顧客が同じ会社に3種類いると考えた。すなわち「総務の人間」「決裁権のある上役」「管理職」である。そして、それぞれの顧客が求める価値を考え抜き、適切な仕方で営業をかけていった。
  • イノベーションを起こさずとも、顧客価値を追及するマーケティングのみで成功した好例である。

衰退産業だったアメリカのカーペット業界が復活

  • 1950年代までは、アメリカのカーペット業界は住宅購入者に向けて販売していたが、なかなか成長できず、衰退の一途だった。
  • 実は住宅購入者はお金がないため、カーペットはいつも後回しで、購買意欲が低かったのだ。
  • そこで「顧客は誰か。また、誰であるべきか」を問い直したところ、「住宅購入者」ではなく「住宅建築業者」が真の顧客だという気づきを得た。
  • そこで「カーペットを売る」ことから「カーペットを敷き詰める」ことをウリにして、住宅建築業者向けのサービスを展開して市場が拡大していった。

世界恐慌をものともせず大成長したGMのキャデラック

  • 1929年に起こった世界恐慌で、GM(ゼネラルモーターズ)も危機に見舞われた。
  • キャデラック事業部のニコラス・ドレイシュタットは「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートである。顧客が購入しているのは、輸送手段ではなくステータスである」と考えた。
  • この問いで顧客を創造することで、破綻寸前だったキャデラックは成長事業へと拡大した。

リーマンショック下でもリストラせず黒字経営を維持したエドワード・ジョーンズ

  • アメリカの有名ビジネス誌「フォーチュン誌」で「働きたい全米ベスト10」に毎年ランクインするエドワード・ジョーンズは、1922年創業の老舗証券会社。
  • 1972年に当時のCEOバックマンがドラッカーにコンサルを依頼し、そのとき「金儲け目当ての顧客を相手にしてはならない」とアドバイスを受けた。
  • 以来、エドワード・ジョーンズは「自分たちの顧客は「儲け」ではなく「安心」を求めている中間層」とハッキリとした定義のもとで事業を展開していった。

社会構造の変化に適応して顧客を再定義し続けたシアーズ

  • 1893年創業のシアーズはのちに“消費者の聖書”と呼ばれるカタログ通信販売を手がけたアメリカの超有名企業である。
  • 19世紀末は「都市部から隔絶された農村部の人々」をメイン顧客に、カタログ通信販売を行った。
  • しかし農村部の人々が都市に移り住み、工場労働者になっていった20世紀では従来のビジネス形態が通用しなくなった。自動車が当たり前になった時代では、もはや“隔絶された農民”は希少な存在となったのだ。
  • そこでシアーズは、都市生活が主流となる大衆社会に向けて、顧客を「自動車を持つ農民と都会で暮らす人々」と再定義し、大量生産型の商品開発を推し進めていった。

「なぜ乗らないのですか?」と直接顧客に尋ねて復活を遂げた十勝バス

  • 北海道は帯広市で地域密着のバス事業を展開する十勝バスは、1926年創業の老舗企業だが、歯止めのきかない乗客数の減少に悩んでいた。
  • そこで十勝バスをあまり利用しない「非顧客(ノンカスタマー)」に「なぜバスに乗らないのか」を尋ねて回った。
  • すると「乗り方がわからない」というあまりにもシンプルな答えが返ってきた。そこで十勝バスは、整理券の意味からはじまり、あらゆるバスの疑問を解決する工夫や、「目的別時刻表」の作成を行った。
  • 結果、40年以上減っていた乗客数をプラスに転じさせることに成功した。

アメリカの若者の不満を見抜いて大躍進したソニー

  • 1950年代の日本製品は「安かろう悪かろう」のネガティブイメージで、アメリカではまったく相手にされなかった。
  • このときソニーは、アメリカの若者がピクニックやキャンプにデカくて重たいアメリカ製のトランジスターラジオをかついでいることに注目した。
  • ソニーはアメリカの若者たちの「満たされていない欲求」を見抜き、持ち運びに便利な小型ラジオを開発し、アメリカ市場を席巻した。

顧客の創造の意味を理解するための3つの前提

  1. 顧客は自分の欲求を満たすことにしか興味がない
  2. 顧客が商品・サービスを購入したときに初めて企業は存在できる
  3. 事業を定義するのは顧客である

①顧客は自分の欲求を満たすことにしか興味がない

顧客の関心は「この製品は自分のために何をしてくれるのか」だけである。

ドラッカー『創造する経営者』より

顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。

ドラッカー『マネジメント』より

顧客はどうして製品やサービスにお金を出すのか。よくあるのが「うちの製品を良いと思ってくれたから」という回答だ。たとえば飲食店の経営者なら「うちのパスタは味で評価されているのだ」と答えるかもしれない。この考え方は部分的には正しいが、一方で大きな落とし穴がある。

果たして本当に、顧客は味を評価してくれているのだろうか?店主と同じくらいに味を理解しているのだろうか?美味しいパスタが食べたいというのが、彼らにとって最上級の欲求なのだろうか?

年齢、時間、立地、価格、メニュー、内装……あらゆる要素が複雑に絡みあって、顧客がその店で実現したい“価値”は異なる。

渋谷の表参道に店を出すなら、イタリアで長年修行した本格パスタのほうが顧客の価値を実現できるかもしれない。顧客は表参道という街で過ごすにふさわしい店・味・価格を求めているからだ。

しかし、吉祥寺の商店街でパスタを食べるなら、定食屋で食べるような大雑把な味付けで、かつ値段が安く量の多いパスタのほうが、顧客の価値実現性は大いに高まるだろう。なにしろ吉祥寺は東京でも指折りの学生街である。自炊を面倒くさがる学生たちは、質よりも食べ応えを期待しているはずだ。

「顧客は誰か。また誰であるべきか」ーービジネスをするとき、その商材が、どんな顧客のどんな価値(願望)の実現に貢献できるのかを考えなければならない。

②顧客が商品・サービスを購入したときに初めて企業は存在できる

顧客を満足させられなければ成果はない。企業ならば、時を経ずして倒産するだけのことである。

ドラッカー『経営者に贈る5つの質問』より

顧客こそ企業の基盤である。顧客こそが企業を存続させる。顧客こそが雇用を生み出す。その顧客の欲求とニーズに応えるために、社会は富を生み出す資源を企業に負託する。

ドラッカー『マネジメント』より

自分たちが売りたいものからスタートするのではなく、顧客がほしいものを売りなさいーーとドラッカーは何度も強調する。いわゆる“顧客志向”の発想に立ってビジネスをすることが肝要というわけである。

先立つものは企業ではない。企業のために顧客がいるのではない。顧客が製品やサービスに対して、お金を払うだけの価値があると考えたとき、はじめて企業は社会的に存在が許されるのだ。

③事業を定義するのは顧客である

企業の目的とミッションを定義するとき、そのような焦点となるものは一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。

ドラッカー『マネジメント』より

「われわれの事業は何か」に答えを出すには、「われわれの顧客は誰か。どこにいるか。彼らにとっての価値は何か」を考えなければならない。事業を決めるものは世の中への貢献である。貢献以外のものは成果ではない。

ドラッカー『マネジメント』より

何のために事業をやるのか。「売りたいものがあるから」ではだめなのだ。それは企業の都合でしかない。企業の都合を顧客に押し付けてはならない。

製品やサービスに意味が生まれるのは、顧客の自己実現の手段として役立つときである。このときはじめて、事業の存在理由を定義できる。

「顧客の創造」を具体的に行うための6つの問い

  1. 「顧客は誰か、どこにいるか」
  2. 「顧客にとっての価値は何か」
  3. 「われわれの事業は何か」
  4. 「現在の消費者が満たされていない欲求は何か」
  5. 「われわれの事業は何であるべきか」
  6. 「既存の製品・サービス・流通チャネルが今日の社会構造に適合しているか。合っていないならば、それらのものをいかにして廃棄するか」

①顧客は誰か、どこにいるか

易しい問いではない。まして、答えのわかりきった問いではない。だが、この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかが決まってくる。

ドラッカー『マネジメント』より

IBMの事例が示すように、製品やサービスを売り込むべき顧客は、実は一枚岩ではなく、複数存在することが多い。

たとえば製紙会社に機械を売り込むなら、社長だけではなく、工場の技術者、研究所の化学者、営業担当者も相手にする必要があるだろう。立場が違うのなら、当然、求める価値も基準も異なる。それぞれに応じた提案をしていかなければならない。

このように、「顧客は誰か、どこにいるか」をしっかり問えば、社長だけを相手に営業をかけるだけでは訴求できないということがわかってくる。社長は自分の意思決定について、技術者・化学者・営業の人たちから賛同を得たいと思っているのだから。

②顧客にとっての価値は何か

顧客が買うものは製品ではない。欲求の充足である。顧客が買うものは価値である。

ドラッカー『マネジメント』より

「顧客は誰か、どこにいるか」を定めたら、次に熟慮しなければならないのは、その顧客が日々どんな自己実現欲求を持っているのかということである。

たとえば、ショッピングや街遊びが好きな女子高生に靴を売るなら、機能性よりもファッション性を追及するべきである。なぜなら彼女らが求める靴の価値は、「お洒落であること」だからだ。価格や耐久性は二の次である。極端にいえば、履き心地ですら重要な価値ではない。

だが、小さな子どもを連れて歩き回ることの多い主婦にとって、靴の価値とは、価格と耐久性であろう。それに加えて、はき心地も新たな価値として付け加わる。

靴という製品は、顧客が「お洒落をしたい」「友達にセンスをほめられたい」「歩き続けても疲れない」「長く使い続けたい」といった種々の欲求を満たす手段である。

したがって、その顧客にとって靴の価値は何かを常に問い続けなければ、ニーズのズレた製品を生み出してしまうことにある。それは経済資源を無駄にしていることと同義である。

③われわれの事業は何か

ほとんどのマネジメントが、苦境に陥ったときにしか、「われわれの事業は何か」を問わない。(略)「われわれの事業は何か」を真剣に問うべきは、むしろ成功しているときである。

ドラッカー『マネジメント』より

顧客は誰か、顧客はどこにいるか、顧客の価値は何か。この定義を明確にしたときにはじめて、「われわれの事業は何か」の答えがでてくる。

では、「われわれの事業は何か」を問うのは、いつどんなときに行えばいいのだろうか。一つは、事業が苦境に陥ったときだとドラッカーはいう。そのわかりやすい例が、GMのキャデラックであろう。

だが、苦境に立たされてからでは遅いのも事実である。それではリスクがあまりにも大きすぎる。基本的には、事業の構想の段階で「われわれの事業は何か」もとい「顧客は誰か、顧客はどこにいるか、顧客の価値」を定めておく必要がある。

では、事業が成功しているときは、「われわれの事業は何か」が正しい証左であるとして、現状維持でいいのだろうか。答えは否である。ドラッカーにいわせれば、「われわれの事業は何か」は、むしろ事業がうまくいっているときに問い続ける必要があるという。

なぜなら「成功」とは、その時点ですにで「過去」の産物でしかないからである。昨日うまくいったことが、今日も明日も通用するという保証はどこにもない。世の中は絶えず変化し、人々の自己実現欲求も変わってゆく。それは世の必定である。

たとえば、3年前の若者は「見た目がおしゃれなら靴の耐久性なんてどうでもいい」という価値観が当たり前だったとして、3年後の若者は「安くて耐久性のいいコスパ重視の靴を履くことがかっこいい」という新しい価値観で生きている可能性もあるのだ。

「われわれの事業は何か」を問うということは、顧客の感じているリアル、つまり彼らがどんな価値観で現実世界を生きているのかを、問い直すということである。3年前の価値観を更新せずに3年後の若者の価値を決めつけることは、非常に危険なのだ。3年前の成功体験は、すでにその時点で過去の出来事でしかない。

「われわれの事業は何か」を問うタイミングは3つ
  • 事業を構想したとき
  • 事業が苦境に陥ったとき
  • 事業がうまくいっているとき

④現在の消費者が満たされていない欲求は何か

消費者の欲求のうち「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を問う必要がある。この問いを発し、かつ正しく答える能力をもつことが、波に乗るだけの企業と成長する企業との差になる。波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。

ドラッカー『マネジメント』より

「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」は、競合調査をするうえできわめて重要な問いである。自社の製品やサービスが、どんなポジションで戦っていくのかを左右するからだ。

ソニーが当時のアメリカの若者が抱いていた不満、つまり「デカくて重いラジオをかついでピクニックに行くのは面倒くさい」という満たされていない欲求(不満)を見抜き、携帯用ラジオで市場を席巻した事例は、まさにその典型である。

ソニーは、トランジスターラジオの発明者ではない。だが、アウェイのアメリカに乗り込み、ついにはラジオ業界をひっくり返すまでに大躍進を遂げた。それができたのも、すべては「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を見極めたからである。

⑤われわれの事業は何であるべきか

「われわれの事業は何であるべきか」との問いも必要である。現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、新しい事業を創造することができるかもしれない。

ドラッカー『マネジメント』より

先ほどまでは「われわれの事業は何か」を問う大切さについて論じたが、それだけでは不十分である。「われわれの事業は何であるべきか」も問わなければならない。“あるべきか”を問うということは、事業の根本的な在り方を見つめなおすことを意味する。

たとえば“ビッグ・ブルー”ことIBMは、その昔、コンピューターはズブの素人レベルだった。

当時のIBMの主力製品はパンチカードで、コンピューターに関する技術や知識はほとんど持ち合わせていなかった。なにしろ当時はまだ、データ処理の手段としてパンチカードが全盛だったのだ。仕方のないことではある。

しかしこのときIBMは、パンチカードという主力事業に甘んじることはしなかった。「われわれの事業は何であるべきか」を問い直した結果、パンチカードは遅かれ早かれコンピューターにとって代わられると確信したのだ。

そう、パンチカードとは、あくまでもデータ処理を行う手段でしかない。これからもパンチカードを売り続けようと考えるのは、企業の自分勝手な都合でしかないのだ。顧客価値に何の貢献も果たさない。より迅速で正確、場所もとらないコンピューターのほうがいいに決まっている。

だからIBMは、“われわれの事業はパンチカードであるべきではない”という結論にいたり、コンピューター事業に転換する意思決定を下すことができたのである。

われわれはもちろん、パンチカードよりもコンピューターのほうが優れていることを知っている。パンチカードとコンピューターが競合し、最終的にコンピューターが勝った世界しか知らないからだ。

大切なのは、最前線にいるときに、「われわれの事業は何であるべきか」を問い、意思決定する勇気を発揮できるかということである。

パンチカード全盛の時代をひた走ってきた当時のIBMが、これまでの主力製品を廃棄し、新しい分野に挑戦できたのは、製品やサービスが、あくまでも顧客価値を実現する手段であるという認識を忘れずにいたからなのかもしれない。

⑥既存の製品・サービス・流通チャネルが今日の社会構造に適合しているか。合っていないならば、それらのものをいかにして廃棄するか

新事業への参入の開始と同じように重要なこととして、事業の目的とミッションに合わなくなったもの、顧客に満足を与えなくなったもの、業績に貢献しなくなったものの体系的な廃棄がある。

ドラッカー『マネジメント』より

過去の囚人」になってはならないとドラッカーはいう。“うまくいっているもの”はすべて、昨日の延長にあるものであって、今日を捉えているわけではない。

世の中は絶えず変化している。日々刻々と変化する状況のなかで、これまで通用していたことが通用しなくなることは、何も珍しくはない。だからこれまでのやり方に執着することは、変化を拒み、みずから世の中に適応できない組織へと向かうことを意味する。

既存の製品・サービス、流通チャネルが、顧客や世の中の実態に適合しているのか。適合していないならば、いかにして廃棄するのか。「われわれの事業は何か」の問いの背後で、体系的な廃棄を実践しなければならない。

体系的な廃棄を行うための問い
  • 「それらのものは今日も有効か、明日も有効か」
  • 「今日顧客に価値を与えているか、明日も顧客に価値を与えるか」
  • 「今日の人口、市場、技術、経済の実態に合っているか」
  • 「合っていないならば、いかにして廃棄するか。あるいは少なくとも、それらに資源や努力を投ずることをいかにして中止するか」

企業は明日をつくらなければならない。昨日のやり方を守るために時間と労力を割いてはならない。体系的な廃棄を論じたドラッカーを実践したのが、1960年代のGE(ゼネラル・エレクトリック)だった。GEはドラッカーのいうように、「いかなるものから手を引くべきか」という観点で戦略を展開した。

まとめ

要点整理
  • 顧客は「この製品は自分のために何をしてくれるのか」にしか興味がない
  • 製品やサービスは顧客の欲求を充足する手段である
  • 顧客の創造とは顧客の欲求を満たす製品やサービスを提供すること
顧客の創造を行うための問い
  1. 「顧客は誰か、どこにいるか」
  2. 「顧客にとっての価値は何か」
  3. 「われわれの事業は何か」
  4. 「現在の消費者が満たされていない欲求は何か」
  5. 「われわれの事業は何であるべきか」
  6. 「既存の製品・サービス・流通チャネルが今日の社会構造に適合しているか。合っていないならば、それらのものをいかにして廃棄するか」

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