『ドラッカー365の金言』(原題:The Daily Drucker/1996年)は、ピーター・F・ドラッカーの同僚であるクレアモント大学のジョゼフ・A・マチャレロ教授が編纂した本である。
推薦の言葉には、『ビジョナリーカンパニー』で著名なジム・コリンズが、約4ページにわたってドラッカーへの想いをつづっている。何を隠そう彼は生粋の“ドラッカリアン”なのだ。
ドラッカーのすごさは、簡潔な文章をもって複雑な世界をずばりと切り裂き、真理を明らかにするところにある。禅師のごとく普遍の真理を数言をもって示す。読むたびにこちらの理解が深まっていく。本書『ドラッカー365の金言』は、それら至言の宝石箱である。読者は一万ページを読むことなく真髄を得ることができる。
(『ドラッカー365の金言』p. v)
最高の経営書とされる『経営者の条件』や『プロフェッショナルの条件』は、ドラッカーの本質(エッセンス)が凝集された素晴らしい作品だが、『ドラッカー365の金言』には、政府・政治・社会について鋭くメスを入れたドラッカーの言葉が多数収録されている。
その意味で『ドラッカー365の金言』は、“ドラッカー全集のハイライト版”とも言い表すことができるかもしれない。
さてこの記事では、『ドラッカー365の金言』の基本的な特徴を示すとともに、この記事を書いている筆者自身が、いち読者として素晴らしいと思ったページを、感想をそえて一部紹介する。
目次
『ドラッカー365の金言』の特徴・構成
- ドラッカーの著作の「最高のページ」が365点収録されている
- 行動のためのアクションポイントがコメントされている
- 一カ月ごとにまとめられている
- 引用内容が難しくてもヘッドラインとアクションポイントがわかればOK
基本的な使い方
- ヘッドラインを見る
- 引用を読む
- アクションポイントを実践する
実際にどんなことが書かれている? ベスト5で抜粋して紹介
①組織の精神はトップから生まれる
真摯さはごまかせない。ともに働く者とくに部下には、上司が真摯であるかどうかは数週でわかる。無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには寛大かもしれない。だが、真摯さの欠如は許さない。そのような者を選ぶ者を許さない。
このことは、とくにトップについていえる。組織の精神はトップから生まれるからである。組織が偉大たりうるのは、トップが偉大だからである。組織が腐るのはトップが腐るからである。「木は梢から枯れる」との言葉どおりである。
範とすることのできない者を高い地位につけてはならない。
(『ドラッカー365の金言』p. 5)
ドラッカーのアクションポイント
- ヘッドハンティングをされたときは、相手の会社のトップの人となりを見よう
- 真摯な人と仕事をすることを心がけよう
読者の感想
“トップの器が組織の限界を決める”という話はよくありますが、「真摯さ」とはまさにそのことなのでしょう。リーダーシップの何たるかを的確に示しています。
②重要なことは自らの事業は何かを知ることである
自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないかに思われる。…(中略)…しかし実際には、われわれの事業は何かとの問いは、ほとんど常に答えることの難しい問いである。正解は決して明らかではない。
事業は、社名や定款や設立趣意書によって定義されるのではない。顧客が満足させる欲求によって定義される。顧客を満足させることが、企業の使命であり目的である。したがって、われわれの事業は何かとの問いは、外部すなわち顧客と市場の観点から見て、はじめて答えることができる。顧客が見、考え、思い、欲しがるものを客観的な事実として、セールスマンの報告、技術者の実験、会計上の数字と同じように正面から受け止めなければならない。
顧客の心を読もうとするのではなく、顧客自身から直接答えを得るべく意識して努力しなければならない。
(『ドラッカー365の金言』p. 63)
ドラッカーのアクションポイント
- 今週は毎日1人の顧客から話を聞くようにしよう
- あなたの組織をどう見ているのか?
- あなたの組織に何を求めているのか?
- 顧客の生の声を参考に事業の再定義が必要かを検討しよう
読者の感想
【会社の存在理由は顧客に貢献することである】➡【したがって事業は顧客起点でなければならない】➡【事業の定義は常に顧客が根拠であり、顧客の欲求の変化によって再定義が必要である】というロジックは、ドラッカーの全著作を理解するうえで、きわめて重要です。これはマーケティングや顧客の創造に深く関わっています。
③本物の変化とは人が行うことであり、流行とは人が言うことである
起業家は変化を当たり前のものとして見る。自ら変化を起こそうとはしないが、変化を探し、変化に反応し、変化を機会として利用しようとする。それが起業家である。
変化を観察しなければならない。あらゆる角度から見なければならない。そして機会となりうるかを問わなければならない。あらゆる変化について、本物の変化か流行かを見なければならない。見分け方は簡単である。本物の変化とは人が行うことであり、流行とは人が言うことである。話にしか出てこないものは流行である。
そして、それらの変化を機会として捉えなければならない。最初から脅威としてしまったら、もうイノベーションは無理である。
何事であれ、目論見と違うからといって無視してはならない。予期せぬことこそ、しばしば最高のイノベーションの機会となる。
(『ドラッカー365の金言』p. 78)
ドラッカーのアクションポイント
- いまあなたの業界内で起こっている変化について30分ほど同僚と話し合ってみよう
- そして「最大の変化」は何なのかを明確にしてみよう
- あなたの組織はその「最大の変化」を「機会」として捉えることができるだろうか
読者の感想
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』で、起業家精神(企業家精神)とは変化を機会として利用できる者と定義しました。イノベーションは才能や気質ではなく、機会を見つけ出すための実践的行動が起こす。彼はそう論じたのです。
④重要なことはわが子をその人の下で働かせたいと思うかである
組織のリーダーを選ぶには何を見なければならないか。
第一に、何をしてきたか、何が強みかを見る。成果をあげるのは強みによってである。したがって、その強みを活かして何をしてきたかを見る。
第二に、組織がおかれている状況を見て、行うべき重要なことは何かを考える。そして、そのニーズに強みを組み合わせる。
第三に、真摯さを見る。リーダー、とくに強力なリーダーとは模範となるべき者である。組織内の人たち、とくに若い人たちが真似をする。
ずっと前のことだが、私は、世界的な規模の大組織のトップをつとめるある賢人から大事なことを教わった。彼は70代後半だったが、人事の適切さで有名だった。何を見るにかを聞いたところ、「重要なことは、わが子をその人の下で働かせたいと思うかである。その人が成功すれば、若い人が見習う。だから、私はわが子をその人のようになってほしいかを考える」と答えた。これが人事についての究極の判断基準である。
(『ドラッカー365の金言』p. 107)
ドラッカーのアクションポイント
「この人の下で、わが子を働かせたいか」「わが子に見習わせたいか」を人事で考えてみてください
読者の感想
人事の評価、組織のあり方、働きやすい環境づくり。様々な場面で「自分の子どもを働かせたいか」という問いかけが、多くの気づきを与えてくれるのではないでしょうか。
⑤マネジメントに携わる者は現実家であって、評論家であってはならない
真摯さを定義することは難しい。しかし真摯さの欠如は、マネジメントの地位にあることを不適とするほどに重大である。人の強みよりも弱みに目がいく者をマネジメントの地位につけてはならない。人のできることに目の向かない者は組織の精神を損なう。マネジメントに携わる者は現実家でなければならない。評論家であってはならない。
何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心をもつ者をマネジメントの地位につけてはならない。誰が正しいかを気にすると、部下は無難な道をとる。おかした間違いを正すよりも隠そうとする。
真摯さよりも頭のよさを重視する者をマネジメントの地位につけてはならない。有能な部下に脅威を感じる者もマネジメントの地位につけてはならない。そして、自らの仕事に高い基準を設定しない者をマネジメントの地位につけてはならない。
(『ドラッカー365の金言』p. 111)
ドラッカーのアクションポイント
- 「真摯さ」を自分たちで定義してみよう
- あなたが新人に求める真摯さとは?
読者の感想
マネジメントとは、テクニックではなく、“人としてどうあるべきか”という人間本性に根ざした“倫理”のようなものなのかもしれません。
365の金言を実践するなら『実践するドラッカー』がおすすめ
『イノベーションと企業家精神』は300ページをこえる骨太の内容なので、気軽に手に取るには、ちょっと重たいかもしれない。
かといって、本書を読まなければイノベーションの原理原則を実践できない、というわけではない。
たとえばここに紹介する『実践するドラッカー』という本には、『イノベーションと企業家精神』のエッセンスがまとめられ、誰でもすぐに実践できるような構成になっている。
いまではベストセラーとなっている『実践するドラッカー』は、読書が苦手な人でも読みやすく、実践にうつしやすいという点が特徴だ。
『実践するドラッカー』の愛読者の声
(インタビュー:千里堂メガネ 古川さん)
お気に入りに追加ドラッカーの教えを一言で表すなら、ビジネスに役立つ強力なツール。読んでいるときに“ビビッ”ときた項目を実践すれば、すぐに効果がでてくるんです。しかも、いつ読んでも新しい発見がある。その時々によって、置かれている状況や、悩んでいることは違いますから、読むたびに実践内容が更新されていくんです。
だから僕は、いつもドラッカーの本を持ち歩いて、時間さえあればページを開いていますよ。たとえば朝なんかにね。読むのは10~15分くらいでもいいんです。ザッと読んでみて、「あ、これいいな。やってみよう」と思ったら、すぐにやってみる。そして成果が出たら、周りの人やスタッフに共有してどんどん広めています。
いうなればドラッカーの本は、経営やビジネスに役立つ道具箱のようなものです。現在の状況や悩みを解消するツールを選んで使ってみるという感覚で、ぜひ拾い読み・ナナメ読みをしてほしいなと思います。
僕も昔は「ドラッカーをゼロから100まで勉強しないと意味がないのではないか」と考えていたこともあるのですが、ドラッカーの教えは一つひとつが強力なので、個別具体的に実践しても十分に効果があるのだと気が付きました。
(引用元:引用は一部抜粋しています。【経営者勉強会】「読書が苦手な人」におすすめ。“ツール”としてドラッカーを実践的に使ってほしいですね。【千里堂メガネ】)
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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