清水 祥行(しみず よしゆき)
1968年、兵庫県西宮市うまれ。同志社大学卒。
Dサポート株式会社代表取締役、
ナレッジプラザ・ドラッカー読書会認定ファシリテータ、
一般財団法人しつもん財団認定ビジネス質問家、
経済産業省登録中小企業診断士(平成8年登録)。
楽天大学にて「もし楽天店舗さんがドラッカーのマネジメント論を学んだら」講師を務める。
目次
「いまの事業だけでいいのか」と不安で、他の新規事業を検討しています。
現在の事業一本だけでは今後が不安なので、他の事業も始めようかと思っています。この考え方って、正直にいって安易でしょうか? やるべきかどうか、どんな基準で判断すればいいかわからなくて……
新規事業のヒントは既存事業の中にあります。
まず結論からいいますと、新規事業はぜひ今のうちから始めてみるべきだと思います。現在の主力事業で利益が出ているうちに、新規事業を模索して、ビジネス環境や社会の変化に対応していくことが経営者に求められます。
そもそも企業の利益というのは、社員が美味しいものを食べたり、役員が高級車を買ったりするためにあるのではありません。
「利益とは、(中略)リスクに対する保険料であり、経済活動の基盤となるものである。リスクに対する相応の用意のない社会は、自らを食い潰す貧困化する社会である」
ドラッカー『企業とは何か』より
「利益は陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする」
ドラッカー『現代の経営』より
利益は企業が社会貢献を続けていくための活動資源です。企業は常に変化のリスクにさらされています。利益を確保していれば、世の中や市場の変動リスクに耐えることができますよね。
とはいえ、価値観や社会構造の変化に伴い、現在の事業が、これからもずっと顧客に必要とされるとは限りません。そのため経営者は、利益を確保している状態で、次なる事業を模索していく必要があります。
しかしだからといって、「儲かるから」「いま店を出せば確実に儲かるから」「一度やってみたかったから」という理由で安易に新規事業を起こすのはタブーです。それは安易な多角化というやつで、大きな失敗や損失につながりやすくなります。
その事業をやるべきか、やらないべきか。新規事業の有効性を判断するには、一体どうすればよいのでしょうか。
まずは事業を定義することから始めましょう。
「事業の定義は三つの要素からなる。第一は、組織をとりまく環境である。(中略)第二は、組織の使命すなわち目的である。(中略)第三は、そのような使命を達成するために必要な強みについての前提である」
ドラッカー『チェンジ・リーダーの条件』より
これから始めてみたいと思っている新規事業が見つかった場合は、以下の定義に合致するものかどうかを見極める必要があります。
事業の有効性を判断する3つの検討項目 | |
組織をとりまく環境 | 「社会とその構造」「市場と顧客」「技術の動向」に事業が適合的であるかを検討 |
組織の使命・目的 | 事業が「われわれがなすべきことなのか」を検討 |
強みの発揮 | 事業が「自社の強みを活かせているのか」を検討 |
現在の事業も新規事業も、常にこの3つの視点を用いて、本当に自社にふさわしいものなのかを確認していきましょう。
新規事業のチャンスは足元に!?既存事業の“分解”で見えてくるもの
「そもそもどんな新規事業を開拓していけばいいのかわからない」という方もいらっしゃるかと思います。そういうときほど、“儲け話”や“流行りのビジネス”に飛びつきやすくなるものです。
どのようにして新規事業の候補を探していけばいいのか? ヒントはすぐ身近にあります。あなたが現在行っている事業の中に、新たに業績をもたらす領域が隠れているのです。
しばしば「うちの事業は、特定の商材を決まったルートに販売するだけだから、これ以上は拡げようがないよ」という相談をされることがあります。しかしそれは、事業を分解できていないだけです。
まずは事業を「製品」「市場」「流通チャンネル」の3つに分解しましょう。
「製品、市場、流通チャンネルのそれぞれが、事業活動の領域としてそれぞれ業績をもたらす。したがって、それぞれが収益上の貢献をもたらすとともにコストを発生させる。それぞれが資源を割り当てられ、それぞれの将来性をもち、市場におけるリーダーシップ上の地位を占める」
ドラッカー『創造する経営者』より
なぜ事業を製品・市場・流通チャンネルの3つに分けるのでしょうか。それは、事業がこれらの作業プロセスの総体として成立しているからです。それぞれのプロセスに弱み・強みがあり、競合に押されるところもあれば、特化することで市場シェアを大きく伸ばすことのできるチャンスが隠れています。
「重機」ではなく「部品」を売ることで顧客価値を創造した実話
わたしが知っているある会社は、重機や部品の販売を行う事業を展開していました。その会社の営業マンたちは、なんとかして大型重機を売り込もうと必死でした。大型重機は単価が大きいため、「売るならやっぱり重機でしょ!」的な考えがあったのでしょう。
しかし事業を分解してみると、実はこれまで当たり前のようにやってきた大型重機の販売は、大手企業が席巻している市場であり、非常に分の悪い事業であることがわかりました。それよりもむしろ、単価こそ低いものの、意外に競合の少ない重機部品の販売のほうが、自社の強みを活かせることがわかったといいます。
事業の分解は、主力だと信じていた事業が「実はそうではなかった」と気付くためにも重要なのです。
事業を製品・市場・流通チャンネルの3つに分けて冷静に現状を分析すると、コストの高い既存事業を前向きに廃棄したり、意外な強みを持つプロセスを新規事業化することができます。
新規事業を考えているなら、ぜひみなさんも、まずは自分の事業を見直すことから始めてみてください。ビジネスチャンスは、きっと足元に落ちているはずです。
最後に:ドラッカーを学んでみたい方へ
今回のアドバイスで引用したP. F. ドラッカーは、“マネジメントの父”や”経営の神様”と称され、20世紀の経営学に多大な影響を与えた人物です。
ドラッカーの言葉に励まされ、影響を受けた経営者は数え切れないほどいます。国内だけでなく、世界中でも、ドラッカーを経営に活かした実例は無数に存在します。
もし今回のQ&Aで少しでもドラッカーに興味を持たれたなら、ぜひ一度、ドラッカーのオンライン読書会に参加してみてください。経営者や個人事業主の方はもちろんのこと、学生や会社員/役員の方の参加も大歓迎です。この読書会を通じて、普通では知り合えないような人とつながることもできますよ。
ドラッカーは“拾い読み”をするよりも、一冊の本を読み込み、体系的に学んだほうが、より効果的にビジネスに活かすことができます。
読書会では、ドラッカーの実践によって業績改善やイノベーションを実現できた先輩が、自らの実体験をもとにアドバイスしてくれます。
「小手先の経営テクニックだけじゃ通用しないと痛感した」「どんな波風にも動じない信念を身につけたい」「経営の普遍的な原理原則が知りたい」という方は、ドラッカーのオンライン読書会で新しい発見や気づきを得られるかもしれません。
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2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
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