目次
成果とは何か
「成果」(results)とは、組織が活動を通じて、顧客満足に貢献することをいう。ポイントは、組織内部の事情(売上やコスト削減)が成果ではないということだ。たとえばマネジメントの父ことピーター・ドラッカーは「成果は外にある」と強調する。組織の外に存在する顧客への貢献こそ、組織が存在する唯一の根拠なのだと。
組織の中に成果は存在しない。すべての成果は外の世界にある。客が製品やサービスを購入し、企業の努力とコストを収入と利益に変えてくれるからこそ、組織としての成果があがる。
『プロフェッショナルの条件』より
一般的に「成果」と聞くと、「売上」のことを思い浮かべるかもしれない。しかしその売上という数字は、あくまでも組織の都合であって、顧客には一切関係がない。この重要な事実に気づかないでいると、売上(数字)のみを追求する考え方に陥り、だんだんと顧客の顔が見えなくなっていく。顧客が離れるばかりでなく、顧客のニーズからずれた商品やサービスを開発し、さらに売上が落ちてしまうだろう。
だからこそドラッカーは、「成果は外にある」と繰り返し強調したのだ。
成果の具体例
以下に、顧客満足を成果として言語化することで、社員に主体性が芽生えたり、結果的に売り上げが伸びたりした実例を紹介する。
①生徒が「明日の自分が楽しみになる」ことが塾の成果
ある英語教室の社長は、スタッフの自主性が育たないことに頭を抱えていた。そんなときに、「この塾の成果、つまり顧客価値は何なのか」という問い直しを行った。
これまでは「成績向上」「志望校合格」こそが塾の成果だと自明視していた。しかし、生徒や親が、自身の営む塾を通じて、どんなところに感動や喜びを得ていたのかを振り返った。
すると、「別にうちの子が志望校に合格しなくてもいいんです」「受からなくてもいいから、自分で決めたことを全力でやり切らせたい」という親の声がたくさんあったことに気づかされた。
やがて社長は、生徒が「明日の自分が楽しみになる」ような塾を運営することこそ、顧客価値への貢献、つまり明確な成果なのだとわかった。この成果を組織で共有してからというもの、自主性のなかったスタッフから、どんどんアイデアや提案が出てきて、いまでは社長が指示をしなくても、どうすれば生徒に貢献できるかを考える社風が根付いたという。
②売上は「お客様からのありがとうの数」と成果を定義した事例
岡山のとある美容室は、“顧客に喜びと感動を与えた結果、売上が自然についてくる”と考えた。では、どうすれば、この考え方を組織に浸透させて、スタッフが自発的に成果を追求してくれるようになるのだろう。
そこで社長は、「売上とはお客様からのありがとうの数」と成果を定義した。しかも、それだけではなかった。一見すると、組織内部の事情とも思えるあらゆる数字を、すべて顧客満足度の貢献に結び付けて、スタッフのモチベーションを高めるようにしたのだ。
実際にこの美容室の社長は、次のように組織の数字を成果指標に変えた。
売上とは | お客様からのありがとうの数 |
単価とは | お客様と自分の美意識の高さ |
店販とは | お客様からの信頼のバロメーター |
指名数とは | お客様の「またあなたに会いたい」度 |
リピート率とは | お客様の満足度 |
紹介数とは | お客様の感動度 |
客数とは | 社会への貢献度 |
次回予約とは | 綺麗の優先度 |
指名売上とは | 愛され度 |
給料とは | 自分が人に与えた価値の数と高さ |
この成果の定義により、スタッフは、とりとめのない顧客の反応一つひとつでさえ、組織にとって大事な成果なのだと自覚を持てるようになった。
「紹介数を増やせ」とただ言われても、人の心は動かない。しかし、「サービスを通じてお客様に感動してもらうにはどうすればいいか?」と問いかければ、人の創造性は豊かになり、すすんでアイデアを実行できるようになるのだ。
「われわれの顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」
あらためて、組織の成果は何なのか? それは事業によって千差万別である。成果を定義するには、満足させなければならない顧客について掘り下げる必要がある。
ドラッカーは「われわれの顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」という問いを常に持ち続けよと説く。その問いに答えることができたとき、はじめて「われわれにとっての成果は何か」が見えてくる。
たとえば「コルゲート」(口腔ケア用品ブランド)という米企業は、かつては「即時納入」というポリシーを掲げていた。しかしこれは小売店に対するポリシーであって、本当の顧客(商品のエンドユーザー)には関係のない話だった。
あるときコルゲートは、ポリシーを「品切れナシ」に変更した。すると売上げが3%アップしたという。小さな変化だったかもしれないが、「いつでもどこでもコルゲートの商品を手に入れられる」という顧客満足に資する発想に転換したことで、実際にスタッフの仕事意識に変化がみられたという。
外部の世界に感覚を研ぎ澄ませば、成果のヒントが見えてくる
組織が追求すべき成果は、組織の外にある。組織の内部には存在しえない。このことは、いくら強調してもし過ぎることはない。
コルゲートという組織の外部には、「品切れ」という現象がしばしば発生していた。品切れが起きても、コルゲートの社員は別に困らない。「また明日になればきっと入荷しますから」と一言いえばそれで済む話だ。
しかし、コルゲートの歯磨き粉が欲しくてドラッグストアを訪れた顧客は、とても残念に思うだろう。「私はいま欲しくて店に来たのに」と。組織に必要なのは、こういった境遇に置かれた顧客の心中を察する思いやりである。「ガッカリさせたくない」――実はそこに、成果のヒントが隠れている。
ドラッカーは、大著『マネジメント』で「今日の組織が最も必要としているのは外に向けた感覚器官」と言った。データ分析は今日において非常に重要である。それは疑いようがない。しかし、データはデータであって、それ以上でも以下でもない。データをもって成果を定義することはできない。大切なのは、「顧客の心の内」を掘り下げて言語化する姿勢である。
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