目次
イデオロギー
ある特定の理念・主義・思想によってつくられた世界観のこと。たとえばその一例としてマルクス主義が挙げられる。「資本家階級が労働者階級を搾取しているので、資本家を打倒して真の平等社会をつくるべきだ」。
イデオロギーを持つ人々は、その世界を実現するために、しばしば強引な手段(≒暴力)に訴えることがある。イデオロギーが革命思想と密接に関わっているのはそのためである。20世紀はイデオロギーの衝突が際立つ時代であり、激動のオーストリア=ハンガリー帝国で育ったドラッカーの思想形成にも大きな影響を与えている。
豆知識 | ドラッカーの翻訳者・上田 惇生 氏によれば、「イデオロギーに世界は救えない」と確信した若かりし頃のドラッカーは、現実世界に価値を与える存在として「企業」に希望をみたという。それが「マネジメント」研究の始まりだった。 |
関連用語 | オーストリア・ウィーン、マルクス主義、全体主義(ファシズム) |
ウィンストン・チャーチル(英1874〜1965)
第二次世界大戦時のイギリスの首相。BBCのテレビ番組「100名の最も偉大な英国人」で1位にランクインするほどいまだに人気が高い。文筆・絵画の才能にも恵まれており、実際に従軍体験記や戦記小説を執筆し、晩年はノーベル文学賞を受賞している。大戦中にドラッカーの処女作『経済人の終わり』を読み、感銘を受けた。チャーチルは早速、英国陸軍の幹部候補生全員に『経済人の終わり』を贈ったという。
豆知識 | ピカソに「画家としてもやっていけただろう」と言わしめるほどの実力だったという |
関連用語 | 『経済人の終わり』、全体主義(ファシズム)、イデオロギー、 |
オーストリア・ウィーン
現在の正式名称はオーストリア共和国。ルーツはハプスブルク家。首都はウィーン。ドラッカーの生まれ故郷である。国連事務所をはじめ、数多くの国際機関の拠点となっている。古くから「音楽の都」として親しまれているが、20世紀はオーストリアの受難であった。第一次世界大戦の敗北までは、オーストリア=ハンガリー帝国として列強ヨーロッパの一国として影響力を持ち続けたが、その後ナチス=ドイツの台頭により一時は併合され、第二次世界大戦終結後は連合国の統治下に置かれた。1950年代にようやく独立を果たす。
またオーストリアは学問の都としても知られている。数学は「不完全性定理」で知られるゲーデル。経済学においては「限界効用」概念を生み出したワルラス、ジェヴォンズ、メンガーをはじめ、「創造的破壊」で知られるシュンペーターがオーストリアの知性だった。心理学はみなさんご存じフロイトやアドラー。このように20世紀のオーストリアは、後世に語り継がれるビッグネームを数々輩出した国なのだ。
豆知識 | 広い人脈を持つ政府官僚の父アドルフの紹介で、ドラッカーは若い頃からシュンペーターやフロイトと面識があった。 |
関連用語 | 新古典派経済学、創造的破壊、イノベーション、シュンペーター |
ジャック・ウェルチ(米1935~2020年)
発明王エジソンが創業者の世界最大の電機メーカー「ゼネラル・エレクトリック(GE)」の会長。キャリアは平社員の叩き上げで、入社からわずか12年の1981年には会長兼CEOにまでのぼりつめる。
またジャック・ウェルチは「一位二位戦略」で経営学の世界でもよく知られた人物である。一位二位戦略とは、世界で一位か二位になれる・なるつもりのある事業のみに集中する戦略のことをいう。一位二位戦略は、ドラッカーとの会話のなかで生まれたアイデアだったことでも知られる。
豆知識 | ウェルチは、自分がCEOになったときはまず初めに「ドラッカーに会いに行く」と心に決めていたという。「20世紀最高の経営者」と名高いが、極端な人員整理を推し進めた当時の手法は、かなり評価が分かれている。 |
関連用語 | リーダーシップ、4E、一位二位戦略 |
知識労働
成果を出すために知識を活用することを、ドラッカーは「知識労働」と呼んだ。経営者からアルバイトまで、成果に対して責任を持つ者はみな、等しく知識労働者ということになる。ドラッカーはこれを「すべての者がエグゼクティブ(実行者)」と表現した。
たとえば戦場で戦う兵士もまた、知識労働者である。ベトナム戦争を戦う米軍将校は言った、「実際にどうするかは状況次第だ。その状況は彼らにしか判断できない。責任は私にある。だが、どうするかを決めるのは、その場にいる者だけだ」と。ここにこそ、知識労働の本質がある。知識労働とは、知識を使い、その状況下で成果を出すために意思決定を下す能力のことなのだ。
豆知識 | 米軍将校の言葉については、ドラッカー自身が『プロフェッショナルの条件』で言及している。 |
関連用語 | マネジメント |
フレデリック・ウィンスロウ・テイラー(米1856~1915)
「科学的管理法の父」と称され、経営学の歴史上、きわめて重要な人物。労働者の生産性すなわち仕事の能率(efficiency)を客観的に分析した。しばしば「テイラーシステム」や「テイラーイズム」とも呼ばれる。
19世紀末の時点では、人々はまだ、“どうすればもっと生産性が高まるのか”を真剣に考えることはなかった。仕事の方法は仲間内でのみ共有され、親分衆の言うがままに従うのが当たり前だった。
そんな中でテイラーは労働を客観的に分析し、能率を高める方法を一般化しようと試みた。しかし当時はテイラーの発想は異端で、すぐには受け入れられなかった。科学的管理法の意義が認識されたのは、第一次世界大戦以降のことだった。ドラッカーはテイラーのことを「生産性革命」の夜明けをもたらした人物として高く評価している。
マネジメント
ドラッカーが使う「マネジメント」という言葉は、単なる経営テクニックや金儲けの方法論のことではない。かみ砕いていうと、マネジメントとは、「成果」を出すためのものの見方・考え方のことである。ただしその背後には、「人としてどうあるべきか」という絶対の前提がある。成果さえ出せば何をやってもいいというわけではないのだ。
ドラッカーにとって成果とは、組織がビジネスを通じて、社会に良い影響を及ぼすことだった。なぜなら「企業=社会的責任を持つ組織」だからだ。
組織はすべて、人と社会をよりよいものにするために存在する。すなわち、組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。
『経営者に贈る5つの質問』より
ドラッカーは「儲かりさえすればいい」という浅薄な利潤動機を厳しく批判する。マネジメントという概念は、ドラッカーが賞賛した渋沢栄一の「道徳経済合一説」と非常に近しい。「富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」という渋沢の言葉こそ、マネジメントの本質なのである。
利益
ドラッカーは「利益」を次のように意味付けている。
- 企業が事業を続けるための燃料
- 社会変動や予測不能なリスクに備える保険
- 顧客満足の対価
- 仕事ぶりを評価する尺度
ドラッカーは、利益をあげることは何ら恥ずべきことではなく、むしろ企業の責任であるとさえ言った。なぜなら利益をあげなければ企業は倒産し、顧客を満足させることができなくなるからだ。雇用も維持できなくなる。
ただし利益は目的ではない。あくまでも手段である。ドラッカーは、経済学で当然のように考えられている「利潤動機」を厳しく批判する。
利潤動機なるものは、的はずれであるだけでなく害を与える。このコンセプトゆえに、利益の本質に対する誤解と、利益に対する根深い敵意が生じている。この誤解と敵意こそ、現代社会における危険な病原菌である。
『マネジメント』より
手抜き工事・産地偽装・データ改ざん・粉飾決算などの不正は、まさに「利益こそすべて」という神話の副産物に他ならない。ドラッカーのいう「利益」と、新古典派経済学の「利益」とは、まったく似て非なるものであることがわかるだろう。
企業とは、事業を通じて社会に貢献をする限りにおいてのみ存在が許される。ドラッカーは企業を「公(おおやけ)」の存在とみなした。一方で経済学者は企業を「私」という利己的な存在と考える。
豆知識 | ドラッカーは金儲けを第一に考える野心家をひどく嫌った。しかし、社会貢献を第一に考える事業家には、無償で何時間も話を聞き、アドバイスをしたという。 |
関連用語 | 新古典派経済学、渋沢栄一 |
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