前回第6回で示した原理は、以下のように「組織の目的」に関するものです。
組織の目的(ミッション)を実現する手段として事業がある<マネジメントの原理6>
今日は、事業について基本的なテーマを2つ取り上げます。事業の目的と事業の定義についてです。
事業の目的は顧客価値の創造である<マネジメントの原理7>
事業とは知識という資源を経済価値(顧客価値)に転換するプロセスである<マネジメントの原理8>
事業の目的は顧客価値を創造することです。こんなたとえ話がありあす。「ホームセンターで3mmの穴をあけるためドリルを買いました。顧客が買ったものは何でしょうか」。
答えは…
3mmの穴です。
ドリルは手段にすぎません。真に求めていたものは3mmの穴です。もしかしたら錐(キリ)でもよかったのかもしれません。
私たちが事業によって提供しているものは、手段にすぎません。満足そのものを提供することはできません。満足とは顧客の感情だからです。したがって「私たちが事業で提供するものが手段だとして、真に顧客が求めているもの(顧客価値)は何ですか」と問い続けなければなりません。
「事業とは何か」、つまり事業を定義することは意外と難しい
このことは事業の定義についても表現されています。<マネジメントの原理8>では、3つのことが述べられています。
①事業はプロセスである
②事業というプロセスに知識を投入する
③事業というプロセスから経済価値(顧客価値)が生み出される
事業を考える際、この3つのことを十分に検討し、時々に見直すことが重要だということです。プロセスとは仕組みのことです。 仕組みは具体的にはいくつかの業務で構成されています。また業務は仕事と作業の塊です。
プロセスに投入されるのは経営資源です。一般的にはヒト・モノ・カネなどと呼ばれます。しかしカネには色がついてないし、必要なモノは一般的に誰でもお金さえあれば買えるものです。つまり本質的には、カネやモノでは他と違いを生み出すことはできないということです。
では違いの差はヒトなのか?答えはヒトなのですが、組織で利用している資源は突き詰めると「知識」です。知識とは、情報ではなくスキルや経験といった実践知を伴うものです。たとえばトヨタと三菱自動車の販売台数に差があるのは突き詰めると「知識」の差だといえましょう。
鉄鋼やタイヤなどに基本的な違いがある訳ではありません。企画設計力、デザイン力、製造現場のノウハウ、アフターなどは、すべて「知識」の塊です。違いはこれらの差といえましょう。これらは長じて組織の強み、卓越性となります。
プロセスから生み出されるのが「顧客価値」です。顧客は特定の製品を何らかの理由で選択しています。その理由のことを顧客価値といいます。「顧客にとっての価値は何か」を問うことが重要なのはそのためです。事業はこの価値を実現するためにあります。
以上、事業の定義を説明しましたが、これらの定義の実現に反した行動をすれば事業は成立しなくなります。その意味で、事業で失敗しないための基本的事項といえます。顧客が求めている価値は何か、強みの基盤となる知識は何か、どのような仕組みを構築しているかを何度も問い、磨いていかなければなりません。
原理のマネジメントが必要な理由
第1回目は、原理がマネジメントにいかに必要かについて触れています。<方法ではなく原理を手にすること>の大切さについては何度も確認して欲しいと思います。
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