イチローの野球人生/名言から学ぶマネジメント―『現代の経営』に出てくる3人の石工の話―はたしてイチローは何番目の石工なのか(その3 )

ときに「チームより自分優先」と批判されることのあるイチロー。

孤独と一人対峙するイチロー(その1)

不振の中でチーム一丸となって世界一を勝ち取った2006年のWBCは、その答えを手にする一つのキッカケとなりました(その2)

 

しかし大リーグのシーズンに戻るとまた同じ思考サイクルに戻されそうになります。

最下位に沈んだ2006年、マリナーズのミーティングでこんなことがありました。ベテランのピッチャーのジェイミー・モイヤーが若い選手に檄を飛ばしたときのことです。

「苦しいときほどチームのため頑張れ」

「チームが負けている今こそ、お前らはもっと頑張れ」

これに対してイチローはあえて発言しました。

僕に、『もっと』はない

個人としては、これ以上ないくらい頑張っている。

言外に、次の言葉があったのでしょう。

「みんなも『もっと』はないと言えるくらい一人ひとり頑張れ」

ハイリスク・ハイリターン、覚悟の問い

2006年のシーズンオフ、激闘のWBC(ワールド・ベースボール・クラシックス)から10カ月の2007年1月、イチローがいたのは六本木の鮨屋でした。

食事の相手は第1回WBCの監督だった王貞治さん。

食事が進み、興が乗ったイチローは矢継ぎ早に質問を浴びせていました。

「監督、挫折を味わったことはありますか」

「僕をWBCのメンバーに入れていただいたのは、なぜだったんですか」

「監督にはホームランのイメージしかないんですけど全力で走ったこともあるんですか」

そして話しに花が咲き場も盛り上がった頃、イチローはドキドキしながらずっと気になっていたあの質問をしました。

現役時代、選手の時に、自分のためにプレーをしていましたか、それともチームのためにプレーをしていましたか

WBCでチームの勝利から得られたあの形容詞しがたい感情の高ぶり―きっかけをつかんだと思ったあの感覚(その2)

それでもやはり心のなかで気になっていた問いを孤独な戦いを知る世界の王選手にぶつけてみたのです。

そのときのことを邂逅するイチロー。

答えを聞くまでのちょっとの間、僕の中で緊迫しましたよ(笑)。ああ、聞かなきゃよかった、という結果だって考えられるわけでしょう。僕はあえてそこを訊いたわけで…

期待する答えが返ってこなかったら…という不安の中にいるイチローに王監督は即答。

オレは自分のためだよ。だって、自分のためにやっているからこそ、それがチームのためになるんであって、チームのために、なんていうヤツは言い訳にするからね。オレは監督としても、自分のためにやっている人が結果的にはチームのためになると思うね。自分のためにやれる人がね、一番、自分に厳しいですよ。何々のためにとか言う人は、うまくいかなないときの言い訳がうまれてきちゃうものだからな

イチローは小声で「ありがとうございます」と頭を下げました。

よくぞ、という気持ちでしたね。そこの価値観は、僕も王さんもブレてない。共有しているっていう強みを感じたから、ありがとうございますって言ったんです。あれこそ、ハイリスク、ハイリターンってやつですよ(笑)

ハイリスク、ハイリターンという言葉に、期待する答えと違ったときのリスクの大きさ、心理的ダメージの大きさがにじみ出ています。

世界のトップクラスに共通する姿勢

実は、2006年のシーズンが終わったあとのオフ・シーズンに、この問いを様々な世界トップクラスの人たちに投げかけていました。自分が心血を注いで打ち込んでいることを、何のためにやっているのか…そのことを問い続けていました。

イチローはこのときの経験について次のように述べています。

このオフ、いろんな人に会いましたけど、トップの人はみんな人は口を揃えて言いましたよ、『自分のためにやっている』って。誰一人としていませんでしたね。まずはチームだって言ったひとは…ゼロ、ゼロです。みんな、それがいずれはいろんなところにいい影響を及ぼすってことを知っていた。それが僕にはすごく心強かったですね。とくに王さんの言葉はね。だって、〝世界の王″がそういったなら、堂々と言えますから、アメリカの選手にも、王さんがこう言ってたよって

イチローの嬉しそうな顔が浮かんできます。

「チームのために」と「自分のために」の狭間で悩むイチローにおぼろげながら出口が見えてきました。それは引退会見の言葉につながる出口でもありました。

――イチローさんが愛を貫いてきた野球。その魅力とは?

「団体競技なんですけど、個人競技だというところですかね。野球が面白いところだと思います。チームが勝てばそれでいいかというと、全然そんなことないですよね。個人としても結果を残さないと生きていくことはできないですよね。本来はチームとして勝っていれば、チームとしてのクオリティが高いはずなので、それでいいんじゃないかという考えもできるかもしれないですけど、決してそうではない。その厳しさが面白いところかなと。面白いというか、魅力であることは間違いないですね。」(引退会見より)

しかし…イチローの孤独はこの後、さらに深まるのです。

(つづく)

何番目の石工だったのか

さて、この時点でイチローは何番目の石工だったのだろうか。

やはり2番目というべきなのか…

皆さんも考えてみて下さい。

 

ドラッカー教授のマネジメントの言葉

「スキルにおいて高度の水準にない仕事は真摯さに欠ける」『現代の経営<上>』

 

<参考図書>
『夢をつかむ イチロー262のメッセージ』ぴあ
『イチロー・インタヴューズ』文春新書
『野村のイチロー論』幻冬『野村のイチロー論』幻冬
『イチロー会見全文』GOMA BOOK’S
『イチロー戦記1992-2019』Nunber976
『イチロー引退惜別』週間ベースボール増刊号
『ICHIRO MLB全軌跡2001⁻2019』スラッガー5月号増刊

 

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<実践するマネジメント読書会®>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。 ドラッカー学会理事。 マネジメント会計を提唱するアウル税理士法人代表/公認会計士・税理士。 ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。 Dサポート㈱代表取締役会長。 ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。 公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に100名以上のファシリテーターを送り出した。 誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。 編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 2019年12月『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』を出版。 雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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