記事の内容まとめ
- 在庫処理のために販売していた時代遅れの商品に思わぬ需要
- 予想をしてなかったまさかの使われ方に、ビジネスチャンスを見出す
- 敗戦処理商品を主力として販売てこ入れ
- たった数年で売り上げが4倍になり、年間8,000万円を達成
- ドラッカーの学びがなければ「予期せぬ成功」を見逃すところだった
「『分析できるほどはまだわからない。必ず見つけ出す。外に出かけ、観察し、質問し、聞いてくる』といわなければならない。予期せぬものは、通念や自信を打ち砕いてくれるからこそイノベーションの宝庫となる」
(『イノベーションと企業精神』p. 38)
「予期せぬ成功」に着目すれば、イノベーションが起こる可能性が高い。小さくとも「成功」という結果がすでに出ているから、強い足がかりになる。
しかし、多くの人は「予期せぬ成功」に気付かない。予期せぬものは意識の外側にあるからだ。
だから意識して探索する必要がある。見つけたら分析する。
分析のスタートは顧客からだ。「予期せぬ成功」の理由に答えをもつのは唯一、顧客である。
今回は引き続き、ドラッカーの学びをきっかけに過去の“しがらみ”を断ち切り、思わぬヒット商品で会社の売り上げを4倍にまで伸ばした日興電機製作所のエピソードを紹介する。
⇒前回の記事「ドラッカーに学んだ経営者が非生産的な事業を切る決断!そこで得た新たなビジネスチャンスとは」
★前回のあらすじ★
2004年に和光 良一(かずみつ りょういち)社長が日興電機製作所(埼玉県桶川市)を継いだとき、業績は右肩下がりだった。そこでドラッカーの学びと出会い、事業の「廃業」を決意。最大の得意先に納めていた赤字製品の製造を中止。15年続けた新製品の開発プロジェクトをやめる代わりに、自社の強みが生きる新分野の開拓を狙った。すると自社には現在、利益が出ていて、売り上げが右肩上がりの製品が一つだけあったのを発見する。
社員から見向きもされない“敗戦処理”製品が金鉱脈に?
利益が出ていて、売り上げが右肩上がりの製品が一つだけある――それが、ナンバーディスプレイアダプターだった。
電話機の液晶画面に、電話をかけてきた相手の電話番号を表示するナンバーディスプレイ機能は、今まではほとんどの機種にある。
だが、このサービスが始まった1998年頃には、対応していない電話機が多かった。そこで旧式の電話機でもサービスが受けられるように、電話機に接続して使う液晶画面付きのナンバーディスプレイアダプターを各社が発売した。
だが、新型の電話機への移行が進んだ2000年代前半には、その多くが製造停止になっていた。
その中で日興電機製作所が販売を続けていたのは、在庫が大量に残っていたからだ。社内では「すでに終わった製品」という位置づけで、敗戦処理に入っていた。
ところが、ネット経由で細々と売っていたこのアダプターの売り上げは伸びていた。
年間の販売台数は、00年には500台ほどだったのが、04年には2,000台を超え、08年には3,000台に迫った。
当初、和光社長は「競合他社が製造をやめたからだろう」と、気に留めなかった。だが、あまりの勢いに看過できなくなってきた。
それでもこのアダプターを次の主力製品に据える気にはなれなかった。売り上げに占める割合が5%未満だったからだ。
そしてこの頃、「予期せぬ成功」というドラッカーの言葉に出会った。
「予期せぬ成功ほど、イノベーションの機会となるものはない。これほどリスクが小さく苦労の少ないイノベーションはない。しかるに予期せぬ成功は無視される。困ったことにはその存在を認めることさえ拒否される」
(『イノベーションと企業家精神』)
実は“予期せぬ顧客価値”が生まれていた!
ナンバーディスプレイアダプターは、まさに「予期せぬ成功」だ。この製品を無視して会社の発展はない。
和光社長は本腰を据えて、ヒットの理由を探ることにした。手始めに、アダプターを購入した顧客企業を10社ほど訪問した。
ほとんどがシステム開発会社だった。そこで意外なニーズを知る。アダプターは、美容室や飲食店の予約管理システムをつくるのに使われていたのだ。
アダプターの機能は、本体に電話番号を表示するだけではなかった。電話とパソコンの両方に接続すれば、電話に着信があったとき、相手の番号を店のデータベースにある情報と照合。
電話をかけてきた顧客の過去の来店履歴などを、パソコン画面に瞬時に表示させることができる。
こんな便利な仕組みを低コストでつくれるため、中小企業や自営業者向けのシステム開発のツールとして重宝されていたのだ。
やっと売れている理由に納得できた――和光社長は、ナンバーディスプレイアダプターを次の主力と位置づけ、販売強化に乗り出した。
まず、細かいニーズを拾い上げた新機種を開発した。例えば、顧客訪問で要望を多く受けたUSBケーブルへの対応。
従来品は一世代のケーブルにしか対応していなかったため、顧客は返還用アダプターを別途購入していた。そのため、わざわざ購入の必要がない新機種は歓迎され、さらに買い替えが進んだ。
販売もてこ入れした。直販サイトは従来、自社で制作していたが、その結果、09年度は2,000万円強だったアダプターの売り上げは、13年度は8,000万円強と4倍増。
売り上げの20%を占めるまで成長し、数年続いた赤字を脱する原動力になった。
「ドラッカーに導かれ、我々を本当に必要とする顧客を見つけた」
和光社長は力強く語る。
この記事を読んでくれたあなたへの問い
現代経営学の巨匠ピーター・ドラッカー
(画像:wikipedia)
あなたの会社が商品やサービスを提供した後、顧客は何をしていますか?
あらゆる商品、サービスは本来、顧客の生活やビジネスをより良くするために提供されています。
「我が社は顧客にどんな変化をもたらしているか」。
この問いに経営者が答えを持たないのなら、それは事業ではなく、ただの作業の塊です。
自社の商品やサービスを利用する顧客の様子を思い浮かべてください。
具体的にイメージできないところがあれば、顧客の困った顔や喜ぶ姿が鮮明に見えたとき、新しいアイデアが次々と浮かび上がるはずです。
(<実践するマネジメント読書会>創始者・佐藤 等)
佐藤 等(さとう ひとし)
佐藤等公認会計士事務所所長、公認会計士・税理士、ドラッカー学会監事。1961年函館生まれ。主催するナレッジプラザの研究会としてドラッカーの「読書会」を北海道と東京で開催中。著作に『実践するドラッカー [事業編]』(ダイヤモンド社)をはじめとする実践するドラッカーシリーズがある。
Dラボ
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