何事も、自分本位の発想では成果をあげることはできない。相手が求めるものに寄り添わなければ、単なる自己満足に終わってしまう。
だが程度の差こそあれ、誰もが自分本位の発想で仕事を行ってしまうことがある。
「何度も説明しているから相手に伝わっているだろう」「お客様はこのサービスを望んでいるに違いない」「素晴らしい製品なのだから、お客様も喜んでくれるはずだ」……そんな考えを持っていたがために失敗をしてしまったという苦い経験に、あなたも心当たりはないだろうか?
よかれと思ってやっていることが、実は誰にも望まれていなかったり、むしろ周囲の期待に反していたりすることがある。どうすれば、このような悲劇を回避できるのだろう。
ポイントは、主観と客観の一致だ。今回解説する「Will Can Must」は、自分の意志と周囲が求めることを一致させ、仕事やビジネスで大きな成果をあげるためのフレームワークだ。株式会社リクルートが発祥だといわれているが、「Will Can Must」は、組織マネジメントや自己分析だけでなく、マーケティングでも大いに役立つ思考を提供してくれる。
「仕事でもっと成果をあげたい」「自分の意思決定に自信がなくなってきた」「自分のビジネスアイデアが本当に通用するのか確かめたい」という方は、ぜひこの記事を読んでほしい。他の記事にはない独自の視点で「Will Can Must」の実践方法を解説する。
目次
Will Can Mustとは「したいこと」「強みを活かせること」「求められていること」を一致させる思考方法
結論をいうと、仕事やビジネスで成果をあげるなら、「Will Can Must」を一致させなければならない。まず簡潔に整理すると次のようになる。
Will | 自分の意志。「したいこと」「望んでいること」。 |
Can | 自分の強み。「うまくやれること」「高い能力を発揮できること」。 |
Must | 相手(顧客、同僚、上司)があなたに求めていること。 |
以下で、さらに詳しく説明しよう。
Will
「Will」は自分起点の発想だ。自分自身がしたいこと、望んでいること。それが「Will」である。あくまで主観的。だがそれでいい。人は誰にでも意志がある。自分自身と向き合い、仕事やビジネスにおいて、どんな意志があるのかを言語化しなければならない。
Can
自分自身と向き合っていくと、おのずと「自分の知識と能力を発揮してできること」「得意とすること」「他の人よりもうまくできること」が見えてくる。つまり自分の強み。それが「Can」だ。
さてこのとき、あなたは自分の「Will」と「Can」が一致しているかどうかを見極めなければならない。あなたが仕事やビジネスで望んでいること(Will)が、自分の強み(Can)を活かして実現できるのか。その時点でズレがあるのならば、そもそもあなたの「Will」は現実的ではないかもしれない。
では、能力が足りていないなら、訓練すればよいのだろうか? 訓練して力をつければ、“いつかWillを果たせる”と考えるのが正解なのだろうか? 少年漫画ならば、そのような展開があるかもしれない。努力は報われる。確かにその通りである。しかしその努力をどこに向けるかで、成果は大きく変わってくる。なぜなら、弱みを克服したところで、それが強みに変わるとはかぎらないからだ。
昭和の漫才ブームを牽引したある天才漫才師は、「どんなに才能に優れていても、努力のやり方を間違えると結果はでない」と断言した。
わたしたちは、平等に与えられた「時間」という貴重な資源を使って活動している。時間は非常に希少な資源である。その資源を上手に使って成果を最大化させるためには、自分の強みとは何かを認識し、その強みをさらに強化することに集中したほうがよい。
自らの強みを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を認識する。事実、それ以外に成果をあげる方法はない。
ピーター・F・ドラッカー『経営者の条件』より
Must
自分のしたいこと(Will)は、本当に周囲から求められているのだろうか? その気づきを得るために必要なのが「Must」の発想である。WillとMustが一致しなければ、そもそもあなたの仕事やビジネスは、誰にも必要とされていない可能性がある。
ご存じのように、この助動詞は「しなければならない」と訳される。突き詰めていえば、あなたの仕事やビジネスの存在理由は、「しなければならない」ことによって担保されているのだ。
では「Must」は一体どこにあるというのだろう。それは、あなたの内なる部分ではなく、あなたの外側、すなわち現実世界にある。他者が求めていること、困っていること、助けてほしいこと。そこに「しなければならない」ことがある。
仕事ならば、同僚や上司が自分に求めていることは何なのかを認識しなければならない。ビジネスならば、顧客が製品やサービスに求めていることは何なのかをマーケットリサーチしなければならないだろう。
このように、あなたの「Wil」「 Can」が、本当に「Must」に一致しているのかを確かめて、最終的に主観と客観を一致させなければならない。ようするに「Must」は、自分自身を俯瞰するメタ認知の領域なのである。「Will Can Must」は、「Must」に始まって「Must」に終わるといっても過言ではないだろう。
Will Can Mustの具体例
以下では、カレー専門店を開く場合を例にとり、「Will」「Can」と「Must」が一致していない例と一致している例を比較してみよう。
「Will」「Can」と「Must」が一致していない例
ビジネス | カレー専門店 |
出店場所 | 大学生が多く住む街 |
Will(したいこと) | 味には自信があるので自慢のカレーを食べてもらいたい |
Can(できること) | 全国のカレー店を研究して生み出したオリジナルスパイスレシピ |
Must(顧客が求めること) | 安くて量の多いご飯をお腹いっぱい食べたい |
Will Can Mustが一致している例
ビジネス | カレー専門店 |
出店場所 | 大学生が多く住む街 |
Will(したいこと) | お金がない大学生でもお腹いっぱいになれる憩いの場となりたい |
Can(できること) | ・野菜やお肉がゴロっと入った田舎風のルーカレー・ごはん大盛無料・ポイントが溜まると一皿半額・ヘビーユーザーは毎月一皿無料 |
Must(顧客が求めること) | 安くて量の多いご飯をお腹いっぱい食べたい |
Will Can Mustを一致させるなら「顧客起点」で考えよう
以上の例をみてもわかるように、Must(顧客が求めること)さえハッキリさせておけば、「Will」「Can」はおのずと見えてくる。あくまで顧客起点だ。顧客起点の発想が「Will」「Can」を規定してくれる。
逆に「Will」「Can」から「Must」が生じることはありえない。あくまでも「Will」「Can」は「Must」に従属するものである。先ほどもいったように、「Will Can Must」は、「Must」に始まって「Must」に終わるのだ。
簡単そうに思えるかもしれない。確かに難しいことは言っていない。だが、この重大な事実を見落とす起業家はけっして少なくない。マーケットリサーチを怠り、顧客が求めていることを明確にしないまま、「Will」「Can」を強引に推し進めてしまい、悲惨な結末を迎えることは、なにも珍しい話ではないのだ。
多くの起業家が、市場よりも自分を信じたために消えていっている。
ピーター・F・ドラッカー『ネクストソサエティ』より
Will Can Mustを活用するメリット
- 自分の思い込みや独善を回避できる
- 自分が本当に貢献すべき相手がわかる
- 自分が本当に集中すべきことがわかってくる
- 自分では強みとは思っていなかったが、実は強力な武器だったと気づける
- 自分では強みだと思っていたが、実は相手から見ると強みではないことに気づける
- 限りある時間を、伸ばすべき強みに集中して使うことで、大きな成果をあげることができる
Will Can Mustを活用しないとどうなる?
- 誰にも期待されていないことのために労力と時間を浪費する
- 自分の本当の強みに気づけず、弱みを克服することにのみエネルギーを使う
- 成果があがらない理由に気づけないまま失敗する
- いつまでも成果があがらないのでやる気を失う
Will Can Mustをつくる方法
「Will Can Must」をつくる際に直面する問題は、つまるところ、「どこから考えればいいのか」というポイントに集約される。
これから紹介するのは、ドラッカーの考え方に立脚した方法だ。あくまでも独自の視点で「Will Can Must」にアプローチするのであって、「この方法が唯一の正解である」というわけでないことに注意したい。
さて上記のカレー専門店の例をふまえて結論をいうと、「Will Can Must」は、まず先に「Must」から考えることを推奨する。なぜなら「Will」という主体的な意志の源泉を他者に求めなければ、独善的になるリスクが高くなるからだ。
マーケティングの基本は顧客起点だ。顧客があって、ビジネスがある。顧客ニーズがあって、はじめて価値のあるサービスが生まれる。あくまでも顧客が求めていることを考えたうえで、そのニーズに応えるために自分に何ができるかを考えなければならない。
つまり順番は、「Will Can Must」ではなくて、「Must Will Can」となる。マーケティングの目線でこのことを言い換えると、次のようになる。
①顧客価値を見つける(Must)
テーマは課題探し。世の中に目を向けて、あらゆるところに存在する「満たされない欲求」を見つける。ビジネスの本質は人助けである。未解決の問題こそ「Must」のタネである。誰がどんなふうに困っているのだろうか? そして彼らは何を求めているのだろうか? これを“マネジメントの父”ことドラッカーは「顧客価値」と呼んだ。
②ミッションを定める(Will)
関心のある問題を見つけたら、あなたがそれに対してどんな貢献をしたいのかを言葉にしよう。つまり、どんな顧客に対してどのような貢献をしていきたいのかということだ。それがビジネスの存在理由、すなわち「ミッション」(使命)となる。
③ミッションを実現するための強みを見つける(Can)
自分のどんな強みを活かして、ミッションを実現し、顧客に貢献していくのか。貢献の仕方は、もちろん様々だ。正解はない。だが、不得意な仕事で貢献することは難しい。自身の強みに気づき、成果を最大限に高めることで、はじめて貢献できることがある。
Will Can Mustを組織に取り入れる方法
- Will Can Mustのフレームの重要性を説明する
- Will Can Mustが一致していないことのデメリットを伝える
- Will Can Mustのワークシートを作成してもらう
➡ワークシートの参考はリクルート。 - 上司からフィードバックをもらい、適宜すり合わせる
あなたの「Must」はどこにある?顧客はどこにいる?ビジネスのメタ認知を鍛えよう!読書会はセルフモニタリングの最強ツール
今回の記事で解説したように、「Must」は「Will Can Must」のなかでも極めて重要な部分だ。「Must」を見つけ出さなければ、誰も期待していない(望まれていない)仕事に労力と時間を費やすことになってしまう。
相手の望みを、自らの望みにする。これこそが、最高の成果をあげる秘訣である。主観と客観を一致させることが、いかに大切であるかを、あなたも今回の記事を通して少しでも理解していただければ幸いである。
さて、この主観と客観の一致の重要性を、マーケティングにおいて説いたのは、他ならぬドラッカーであった。
マーケティングとは、外の世界のニーズや欲求と、組織の目的、資源、目標とを一致させるための活動です。
ピーター・F・ドラッカー『非営利組織の経営』より
わたしたちDラボは、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーの読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
読書会ではアウトプットをとても大事にしている。ドラッカーを読んで、感じたこと、思ったことを、自分の事業に落とし込んで誰かに話す。それを参加者がその場でフィードバックしてくれる。この読書会におけるコミュニケーションが、参加者のセルフモニタリングに大いに役立っている。
実際にわたしたちは、この読書会を通じて、「これまで主体性のなかった社員が自発的に提案をしてくれるようになった」「経営者目線で事業のことを真剣に考えてくれるようになった」という事例をたくさんみてきた。
経営に活かした事例ドラッカーの読書会は、経営者と社員が同じ問題意識をもち、同じ目線で学びあえる貴重な機会だ。
もしあなたが、組織マネジメントやビジネスで思うように成果をあげられずに困っているなら、主観と客観が一致してない可能性がある。
もっともわかりやすいのが、商品やサービスの売れ行きが伸び悩んでいるケースだ。ドラッカーはこんなことを言っている。
顧客が買うものは製品ではない。欲求の充足である。顧客が買うものは価値である。これに対し、メーカーが生産するものは価値ではない。製品を生産し販売するにすぎない。したがって、メーカーが価値と考えるものが、顧客にとっては意味のない無駄であることが珍しくない。
ドラッカー『マネジメント』より
自分たちの売りたいものではなく、顧客が欲しいと思っているものを売れ――ドラッカーにとってマーケティングの原理原則は、売りたいものを売るのではなく、顧客が買いたいものを売ることだった。これはまさしく、マーケティングにおけるメタ認知といえるだろう。
あなたは本当に、顧客のことを理解できているだろうか?顧客のニーズに100%応えることができているだろうか?あなたにとっての「Must」はどこにあるだろうか?
ドラッカーの読書会では、マーケティングのメタ認知を獲得し、大きな成果をあげた参加者がたくさんいる。もし少しでも興味があるなら、ぜひ一度、社員と一緒に読書会に来てほしい。無料体験も実施中だ。オンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会にもなるだろう。
はじめて読むドラッカー読書会 お気に入りに追加Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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