この記事では、マネジメントの開発者であるピーター・F・ドラッカーの金言をガイドにしながら、「マネジメントとリーダーシップの違い」について解説します。ドラッカー教授は、『経営者の条件』『プロフェッショナルの条件』など、現在も世界中の経営者に読み継がれる著作を残した人物です。
まず結論をいうと、この記事の主張は以下の3点に集約されます。
- マネジメントとリーダーシップは表裏一体の関係で切り離せない
- 「マネジメント=管理」は誤りである
- 「組織を方向づける」ためにはリーダーシップが必要であり、つまるところリーダーシップとはマネジメントの一部である
よくある勘違いが、「マネジメントとリーダーシップは別物である」です。のちに詳細に解説しますが、この考え方は間違いです。
マネジメントとリーダーシップを区別する発想は、大きな問題に発展してしまう恐れがあります。仮に「マネジメント=管理」だとすると、「人」の管理を肯定することになり、人の管理を肯定するということは、「支配」の肯定につながるからです。
「マネジメント=管理」はスタッフをルールや決まり事で統制することを肯定することになり、やがて“小さな独裁”が始まります。上司の顔色を伺う息苦しい組織になり、組織における自立した個人が失われるのです。
やがて営業成績の水増し・虚偽報告・強引な営業など、道徳から逸脱した不正が表出します。働く人たちの視座を下げ、貢献ではなく自己保身に走り、いつか組織犯罪を招いてしまうことも……。
ドラッカー教授にとって「組織」とは、顧客・社会・スタッフを幸せにする「道具」でした。
自動車に使われている人がいないように、人類が生み出した組織(会社)という道具も私たち一人ひとりが使うのであり、使われるものではありません。
この記事には、「そもそもマネジメントとは何か」「リーダーシップとは何か」を本質的に学ぶことで、人々が組織(会社)を通して自己実現を果たし、生き生きと働けるような世の中になってほしいという願いを込めています。
「マネジメントとリーダーシップは別物である」と思っているあなたに、ぜひ読んでほしい内容です。
目次
一般的にマネジメントとリーダーシップは「違う」と区別されている
まずは一般的によくみられる見解について整理しましょう。
マネジメントとリーダーシップの違いについて調べていくと、たいていの場合、以下の表に整理されます。
マネジメント | リーダーシップ | |
一般的な定義 | 管理職以上の役職者が部下・業務を管理すること | 目的達成のために、スタッフの自主性を引き出し、組織を導くこと |
双方の関係性 | マネジメントとリーダーシップは役割が違う | |
結論 | マネジメントとリーダーシップは「意味が異なる」 |
ここで特徴的なのは、マネジメントは「管理である」というテクニカルな側面を強調することで、リーダーシップとの違いを見出している点です。
本当はマネジメントとリーダーシップは密接な関係があります
では、マネジメントの開発者であるドラッカー教授は、マネジメントとリーダーシップをどのように捉えたのでしょうか。
結論をいうと、ドラッカー教授は双方を区別するどころか、どちらが欠けても成立しないものだと考えています。
マネジメント | リーダーシップ | |
ドラッカー教授の定義 | 組織のミッション・目標を定めて資源(人/技術/知識)を方向づけること | 人の模範となることで、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めること |
双方の関係性 | マネジメントのためにはリーダーシップが必要で、リーダーシップなくしてマネジメントは成立しない | |
適切な見解 | マネジメントとリーダーシップは同じ文脈から語られるものであり「切り離せない」 |
マネジメントとリーダーシップのよくある勘違い4つ
ではどうして、「マネジメントとリーダーシップは違う」という認識が広く浸透してしまっているのでしょうか。
その理由を解明するために、そもそもマネジメントとは何か、リーダーシップとは何かという根本的な部分にさかのぼりましょう。ドラッカー教授の金言をガイドにしながら、よくある誤解を4つに整理しました。
よくある誤解①マネジメントは「管理」である
詳しくは後述しますが、そもそもマネジメントとは「管理」ではなく「方向づける」ことを意味します。リーダーシップとの違いを強調するために「マネジメント=管理」と主張されることがありますが、これは根本的に誤りです。
マネジメントは方向づけを行う。使命を決める。目標を定める。資源を動員する。それはジャン=バティスト・セイのいう起業家であり、ビジョンと資源を成果と貢献に向けて動員する存在である。
ドラッカー『マネジメント』より
この時点ですでにお気づきの方もいるかもしれませんが、結論をいうと、そもそもマネジメントとリーダーシップは「方向づける」という点で同じ意味として捉えることができます。
このように、マネジメントの発明者・ドラッカー教授に立脚していえば、マネジメントとリーダーシップを分けて考えること自体が誤りなのです。
よくある誤解②人を成長させることはできる
「人がみずから成長すること」と「人を成長させる」ことは、似て非なるものです。
「馬を水場まで連れてくることはできるが、水を飲ませることはできない」というイギリスのことわざをご存じでしょうか。
ズバリいうと、「人を成長させる」ことはできません。人はみずから成長する意欲をもって、はじめて成長できるのです。
成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うなどということは法螺(ほら)にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである。
ドラッカー『マネジメント』より
ドラッカー教授は、組織が個人の価値観に踏み込むことは、人の尊厳を傷つける行為だと警告しています。
たとえば「おれはお前を成長させたくて言っているんだぞ」といった言葉は、一見、好意から発せられたもののように思えます。
しかし、これは相手にとっては押しつけがましいと感じられ、かえってモチベーションを下げてしまう可能性があります。
人を成長させるための指導マニュアルを考えたり、教育体制を整えることを「マネジメント」と捉える人もいますが、これはマイクロマネジメントへの道を開き、組織が個人に害をなす危険に踏み入れる行為なのです。
よくある誤解③マネジメントは管理職以上のスキル
「マネジメント」といえば、一部の経営首脳陣や、部下を持つ上司、管理職の人が行うものと考えられています。しかしドラッカー教授に言わせれば、マネジメントは組織で働くすべての人が行うべきものです。
全員がマネジメントの一員とみなし、マネジメントとしての責任をもつ組織をつくらなければならない。マネジメントとしての責任とは、自らの仕事への責任、組織全体の成果への責任、社会への責任を指す。
ドラッカー『マネジメント』より
ドラッカー教授のマネジメントでは、大別すると「個人(自分)」「人と仕事」「事業」の3つの役割があります。以下に、簡潔ではありますが整理しました。
目的 | 誰がやるのか | |
個人(自分)をマネジメントする | 組織という“道具”を通じて成果をあげ、世の中に貢献し、自己実現を果たす。 | 経営者・幹部・上司・一般スタッフ全員 |
人と仕事をマネジメントする | 考え方も価値観も異なる他人同士が、組織という“道具”を通じて、相互理解のもと、互いの強みを活かし合って成果を出し、世の中に貢献することで、各人が自己実現を果たせるようにする。 | とくに仕事の設計を俯瞰できる人、つまり経営者・幹部・上司。 |
事業をマネジメントする | 組織の存在理由たる「社会への貢献」を果たすために、「われわれのミッションは何か」「われわれの顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」「われわれにとっての成果は何か」「われわれの計画は何か」を定め、働く人たちに示し、あらゆる資源を動員する。 | 事業そのものを俯瞰して、向かうべき方向を示す人。つまり経営者などのトップマネジメント層。 |
よくある誤解④マネジメントとリーダーシップは違う
先述しましたが、この記事のなかでもっともお伝えしたいことは、「マネジメントとリーダーシップは混同されるどころか、そもそもコインの裏と表の関係であり、切り離せない」です。
なぜか?理由はいたってシンプルで、マネジメントもリーダーシップも、「物事を方向づける」という意味だからです。それゆえドラッカー教授は、リーダーシップに欠如している者はマネジメントの地位につけてはならないとさえ言っています。
真摯さを絶対視して、はじめてマネジメントの真剣さが示される。それはまず人事に表れる。リーダーシップが発揮されるのは真摯さによってである。範となるのも真摯さによってである。
ドラッカー『マネジメント』より
方向性を持った組織活動の積み重ねは、組織に強みと価値観を生み出します。ミッションは何かを共有し、行動の基準としている組織にはリーダーシップが生まれます。リーダーシップとは、カリスマ性ではないとドラッカー教授はいいます。リーダーが行うべきことは、ミッションなどの道具を用いて組織を方向づけることです。
『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(著:佐藤等/編:清水祥行)
【まとめ】マネジメントの本当の意味
マネジメントの本当の意味は「物事を方向づける」です。
人を問題や費用や脅威として見るのではなく、資源として、機会として見ることを学ばなければならない。管理ではなくリードすること、支配ではなく方向づけることを学ばなければならない。
ドラッカー『マネジメント』より
「マネジメント=管理」の定義は、「支配」を暗に肯定する危険性があります。なぜなら「人」も資源だからです。
そもそもマネジメントのルーツを辿ると、イタリア語の「maneggiare」に行き当たります。
馬も人間も、それぞれ異なる個性や能力を持っています。目標は同じでも、そこへ至る道や過程は人それぞれです。
まるで、個性豊かな馬をゴールへと導くように、組織においても、メンバー一人ひとりの強みや弱みを理解し、方向づけることが求められます。
「マネジメントとは、仕事の絆で結ばれたコミュニティの組織において機能すべきものである」(『365の金言』)とドラッカー教授が言うように、マネジメントの本質は、「人」にあります。組織は、多様な個人の集合体であり、それぞれのメンバーが持つ「強み」を最大限に引き出し、それらを組み合わせることで、新たな価値を創造することができます。
マネジメントは、単なる命令・指示・管理ではありません。人々の能力を引き出し、組織全体の目標達成を目指すプロセスなのです。
【まとめ】リーダーシップの本当の意味
ドラッカー教授はリーダーシップについて「人を惹きつける資質ではない」(カリスマは必要ない)、「仲間をつくり、人に影響を与えることでもない」と言います。よく勘違いされやすいから強調したのでしょう。
リーダーシップの本当の意味は「人の模範となり、人をよりよい方向に導く」ことです。
リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度な基準、人と仕事に対する敬意を日常の実践によって確認していく組織の精神に勝るものはない。
ドラッカー『マネジメント』より
ドラッカー教授は「リーダーシップとは姿勢でもある」とも言います。なるほどしかし、人の姿勢はなかなか目でみて確かめられるものではないかもしれません。
姿勢でリーダーシップを見せるには、なんといっても行動しかありません。
以下に、ドラッカー教授が定義するリーダーシップについて整理しました。
- リーダーシップとは、「行動」が本質である
- リーダーシップとは、組織の使命に矛盾しないように判断を下す「仕事」である
- リーダーシップとは、地位や特権ではなく「責任」である
- リーダーシップとは、一貫性のある言動で模範を示す「信頼」である
- リーダーシップとは、ともに働く人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高める
そしてさらに、以下にリーダーシップに必要な資質・考え方・姿勢を、“似非リーダー”との対比で整理しました。
- 真のリーダーは、言動に一貫性がある
- 真のリーダーは、組織の使命に矛盾がないように意思決定をする
- 真のリーダーは、責任は常に自分にあると理解している
- 真のリーダーは、部下を恐れない
- 真のリーダーは、優秀な部下を自らの誇りとする
- 真のリーダーは、自分が去った後に組織が崩壊することを恥とする
- 似非リーダーは、自らのカリスマ性で破滅する
- 似非リーダーは、柔軟性がなく、変化を恐れる
- 似非リーダーは、地位や特権を守るために部下を恐れる
- 似非リーダーは、自分が組織の支配者であると錯覚する
リーダーシップについて色々書きましたが、リーダーシップの本質をぎゅっと濃縮した言葉があります。それは「わが子をその人の下で働かせたいと思うか」です。この言葉は、ドラッカーがとある世界的大企業のトップから教わった金言なのだそうです。
さいごに:マネジメントへの招待
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