シュンペーターとは?イノベーション概念・思想・影響力について解説

ヨーゼフ・A・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter:1883~1950年)は、「創造的破壊」や「イノベーション」という言葉を生み出した20世紀の有名な経済学者である。

とくにシュンペーターのイノベーションに関する理論は、経営学だけでなく、研究開発や経営の現場においても強い影響力を与え続けている。もはやシュンペーターは、ビジネスマンの教養と言っても過言ではない。

当記事は、全国でビジネス読書会を主催するサイト「Dラボ」が、「シュンペーターとは?」をテーマに、大事なツボを抑えながら解説する。

この記事を読めば、シュンペーターが

  • 資本主義の本質は創造的破壊
  • 経済発展の原動力はイノベーション
  • 資本主義はいずれ崩壊する

と考えていたことを理解できるようになる。とくに資本主義の未来に関する興味深い考察は一見の価値があり、現代でもしばしば引用されるくらいに有名な部分だ。間違いなく教養が深まり、現代社会を見る目が鋭くなるはずである。

シュンペーターのすごいところ

没後から半世紀以上経ってもなお、どうしてシュンペーターは世界中の人々に引用されるのか。以下に、シュンペーターの功績や影響について簡潔ながら列記した。

  • 20世紀のアメリカ近代経済学の礎を築いた経済学者
  • 1911年の時点で、経済成長は企業家精神をもった人々の活動であると考えた
  • 現代でもよく使われる「創造的破壊」「イノベーション」という言葉の提唱者
  • “マネジメントの父”ことピーター・ドラッカーと親交が深かった

シュンペーターの生い立ちと経歴

シュンペーターは、オーストリア=ハンガリー帝国に生まれた。華やかな経歴を持つシュンペーターは、オーストリア財務大臣やドイツの名門・ボン大学の教授職を経て、のちに渡米しハーバード大学の教授に就任。アメリカ経済学の牙城「計量経済学会」の創設者となる。

数ある著作の中でも『経済発展の理論』『資本主義・社会主義・民主主義』は後世に語り継がれる名著である。そこで登場するのが、「創造的破壊」「イノベーション」「資本主義はその成功ゆえに自壊する」といった言葉たちだ。

これらの概念はあまりにも鮮烈ゆえに、一度聞いたら、その後はずっとシュンペーター的な思考でビジネスを考えてしまうほどである。

シュンペーターが死去したのは1950年。

シュンペーターは若い頃は野心家で、「ヨーロッパ一の美人を愛人にし、ヨーロッパ一の馬術家として、そしておそらくは、世界一の経済学者として知られたい」という夢を持っていた。

しかし晩年、「一人でも多く優秀な学生を一流の経済学者に育てた教師として知られたい」と考えるようになったという。

死の数日前、シュンペーターはピーター・ドラッカーの父親(アドルフ)に、こう言った。

「アドルフ、私も本や理論で名を残すだけでは満足できない歳になった。人を変えることができなかったら、何にも変えたことにはならないから」

名声も地位も手に入れたシュンペーターが最後に行きついたのは、“人のために何をして、どう記憶されたいか”という問いだった。この最後の会話を聞いていたピーター・ドラッカーは、印象深いシュンペーターの言葉を自著で回想した。

シュンペーターの思想の根底には何があるか。本質を知る3つのキーワード

シュンペーターは何を考え、どんな未来を予見したのか。シュンペーターを知るうえで極めて重要なキーワードは3つ。「創造的破壊」「イノベーション」「資本主義の衰退」である。

①資本主義の本質は「創造的破壊」

シュンペーターの思想を支えるものは、「変化」に対する洞察である。世の中は、一歩一歩階段をのぼりつめていくように成長していくものではない。社会は、企業の発明やアイデアによって、突如一変する。シュンペーターはそう考えた。

この規則性のない変化のうねりを、彼は「創造的破壊」や「イノベーション」という言葉で表現したのだった。

そんなシュンペーターにとって、資本主義の本質は創造的破壊のプロセスにあった。企業家精神(アントレプレナーシップ:entrepreneurship)こそ、経済発展の起爆剤なのだ。

②シュンペーターの「イノベーション」は5種類ある

シュンペーターは、イノベーションには以下の5タイプが存在するとした。

  1. プロダクトイノベーション(新しい生産物の創出)

    革新的な製品(product)を開発し、人々のライフスタイルや市場構造を変えるイノベーション。

  2. プロセスイノベーション(新しい生産方法の導入)

    製品やサービスの生産・流通過程(process)のイノベーション。

  3. マーケットイノベーション(新しい市場の開拓)

    新しい市場(market)の開拓によるイノベーション。

  4. サプライチェーンイノベーション(新しい資源の獲得)

    生産財の流通(supply chain)で革新を起こし、生産性の向上・在庫管理の効率化・低コスト化を実現するイノベーション。

  5. 組織イノベーション(新しい組織の実現)

    組織(organization)の革新により、優秀な人材を多数輩出し、生産性と競争力を飛躍的に向上させるイノベーション。

③資本主義は成功するがゆえに崩壊する

資本主義は企業の創造的破壊(≒イノベーション)によって経済発展を繰り返していくが、やがて資本主義は停滞し、社会主義化へ向かっていくという。シュンペーターに言わせれば、資本主義はその成功ゆえに、崩壊の運命にあるというのだ。

なぜ、資本主義は崩壊してしまうのだろうか。シュンペーターによれば、資本主義が発展していくにつれて組織が巨大化し、体制がヒエラルキー構造の「官僚制」となり、企業家精神を持たない管理職のような経営者が出てくるという。

官僚制組織は、シュンペーターが尊敬する社会学者マックス・ウェーバーの概念である。官僚制組織は、軍隊のような厳格な規律と命令系統が整備され、スタッフが組織の部品となり、上意下達の世界で淡々と業務を遂行する世界のことである。

企業家精神をガソリンにして拡大していく資本主義が、やがてその重みに耐えきれなくなり、企業家精神を衰退させ、みずから崩壊していく……。シュンペーターは、この皮肉な未来が現実になると予見したのだった。

シュンペーターの名言

シュンペーターの著作には膨大な名言が残されているが、その中でも印象的な言葉を2つ紹介しよう。

「古きものを破壊し、新しきものを創造して、絶えず内部から経済行動を革命化する産業上の突然変異が必要である」

イノベーションは、外的要因ではなく、企業の内部から湧き起こる“突然変異”なのだとシュンペーターは考えた。理路整然とした秩序のなかでイノベーションが起こるわけではないとするのは、当時の経済学の常識を根底から覆す発想だった。

「馬車を何台つないでも汽車にはならない」

イノベーションは突然起こる非連続的な現象であり、連続的な発展ではない。シュンペーターらしい言葉である。

「1904年以前、誰も自動車がいつか大衆消費の商品になりうるとは思わなかった。誰も、毎年、何百万もの自動車が販売される可能性があることに気づかなかった」

創造的破壊は世の中の常識を変える。人々のライフスタイルを変え、価値観を更新する。

シュンペーターが世界に与えた影響

シュンペーターが、20世紀の経済学史を語るうえできわめて重要な人物であることは言うまでもない。第二次世界大戦後の著名な経済学者のほとんどが、シュンペーターの影響を認めるほどである。

では、経済学の世界を超えてみたとき、シュンペーターの影響力はどれくらいあると言えるだろうか。シュンペーターは経済学者であるため、彼の著作が広く読み継がれているとは言い難い。しかし、創造的破壊やイノベーションという概念は、もはや一般通念として多くの人に浸透している。100年後も語り続けられる概念を生み出したという点で、シュンペーターが世界に与えた影響は、もはや推し量ることができないほどである。

受け継がれる意思。「イノベーション」という概念のその後

シュンペーターが偉大なのは、現代においてもなお、「イノベーション」という概念が影響力を与え続けていることだ。イノベーションの概念は、陳腐化することなく、時代を超えて通用する普遍的な本質を掴んでいる。それゆえに、現代においてもなお、イノベーションの理論は更新され続けている。

イノベーションの理論は発展している

イノベーションの概念は、シュンペーターの死後も経営学者を筆頭に様々に議論され、発展してきた。

現代では代表的な論者として、シュンペーターの他に3人いる。

  • ドラッカーのイノベーション
  • クリステンセンのイノベーション
  • チェスブロウのイノベーション

なかでも、シュンペーターと親交の深かったドラッカーのイノベーション論は非常に興味深い。

シュンペーターは、イノベーションを実践する方法については論じていなかった。ブラックボックスに隠されたままだ。

それに対しドラッカーはイノベーションを実践するためのものの見方・考え方をしっかり言葉にして伝えている。その点が、シュンペーターとドラッカーの興味深い相違点である。

イノベーションの実践について論じた議論はいまでも少ない

現代の経営学でさえ、イノベーションを実際に起こすために必要な方法論についてはほとんど語られない。あくまでも、イノベーションが起こる理由やシチュエーションを第三者の目線で論じるのにとどまっている。

もし、「イノベーションを起こすために必要なのは斬新なアイデアや才能ではなく、思考の習慣だ」と言われたら、あなたはどう思うだろうか?

実はシュンペーターの友人であるピーター・ドラッカーは、まさに習慣の大事さについて言及しているのだ。ドラッカーは、顧客志向を徹底し、顧客の欲求を問い続け、価値を提供できる事業づくりの思考方法を伝えてくれている。

具体的にどのようにすればイノベーションを起こせるのか? そのことについて体系的に論じた著作が『イノベーションと企業家精神』である。詳しい内容はリンク先で解説しているので、ご一読いただきたい。

読書からイノベーションをはじめよう!ドラッカー学ぶといい理由

わたしたちDラボは、ドラッカーの読書会を運営している。経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。

イノベーションの必要性や実践方法に興味のある方は、ぜひ一度、読書会の無料体験に参加してみてほしい。あなたがいま「イノベーションを起こしたい」と思っているのは、現状に満足せず、つねに変化を求めようとする志の高さがあるからだ。

そう、あなたの心の中では、すでにイノベーションが起きている。あとは行動にうつして成果をあげるのみ。

だが成果をあげるには、ちょっとしたコツが必要だ。これまでの思い込みや常識を脱ぎ捨てて、成果をあげるためのプロフェッショナルの思考を習慣化しなければならない。

その点でドラッカーの読書会は、成果をあげるための思考習慣を定着させる意義もある。

まずはドラッカーの本を手に取って読んでみてほしい。順番に読むのではなく、好きなところから拾い読み・斜め読みするだけで、スッと心に染み入る部分が絶対にある。これまでこの読書会に参加した経営者が、みな口を揃えてそう言うのだから、間違いない。

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まとめ

  • シュンペーターのすごいところ

    「創造的破壊」「イノベーション」という言葉の提唱者

  • シュンペーターの生い立ちと経歴

    オーストリア=ハンガリー帝国に生まれ、名門大学の教授職を遍歴し、最後はハーバード大学の教授に就任した。名著は『経済発展の理論』『資本主義・社会主義・民主主義』。

  • シュンペーターの思想の根底には何があるか。本質を知る3つのキーワード

    「創造的破壊」「イノベーション」「資本主義の衰退」

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