オープンイノベーション(open innovetion)とは、自社内で閉鎖的に研究開発するよりも、外部の知識・技術や外部提携を活用したほうが、研究開発の成果があがりやすいという考えのことである。
開発スピードの向上・投資コストの軽減・シナジー効果による生産性の向上を期待できるため、近年では国内・海外問わず、多くの企業がオープンイノベーションに積極的にコミットしている。
この記事では、オープンイノベーションの意味と定義を明らかにするとともに、オープンイノベーションの条件や企業の事例、オープンイノベーションに取り組む方法や注意点について紹介する。
この記事を読めば、
- オープンイノベーションは現代企業が取り組むべき常識となりつつある
- 多くの有名企業がオープンイノベーションの重要性を認識している
- オープンイノベーションはベンチャー起業が大企業と提携するチャンスになる
ことを理解でき、これまで日の目を見なかった自社の特徴や強みが、意外な形で大活躍する未来を描けるようになるはずだ。
オープンイノベーションは、知識や技術を利用する側も提供する側も、新しい市場を開拓するまたとない機会となりうる。事業の可能性をもっと広げたい、あるいは自社の技術をもっと誰かのために役立てたいという方は、ぜひこの記事を読んでみてほしい。
目次
オープンイノベーションの意味と定義
オープンイノベーションとは、自社内で閉鎖的に研究開発を行い、知識や技術を蓄積するよりも、組織外部の知識や技術を積極的に取り入れたほうが成果をあげやすいという理論のこと。
提唱者は経営学者のヘンリー・チェスブロウ。オープンイノベーションの概念は、自社の経営資源という制限をこえて組織外にもイノベーションのチャンスを見出す点で意義がある。
オープンイノベーションには次の2つのパターンがある。
アウトサイドイン型 | 外部の知識や技術を自社の技術に組み込んでイノベーションを起こすケース。 |
---|---|
インサイドアウト型 | 自社の知識や技術を外部に発信して連携を図り、イノベーションを起こすケース。 |
オープンイノベーションの要素
オープンイノベーションの主な要素を分解すると、次の3つに分解できる。
①人材資源
近年では「イノベーション人材」の重要性が指摘されている。イノベーション人材とは、卓越した知識・技術・アイデア・行動力・コミュニケーション能力を生かしてイノベーションをもたらす優れた人材のことである。
自社でイノベーション人材を育成することも大切だが、ときには外部からイノベーション人材を採用・招聘したり、育成指導に長けた専門家を活用することも重要だ。
②アイデアや組織文化
いまではアイデアや組織文化もオープンアクセスできる経営資源の一つになった。WEBで検索すれば、事業のアイデアはもちろん、組織づくりの手本も簡単に見聞きできる。他社の成功を学ぶことができれば、自分たちのイノベーションにもつなげられるかもしれない。
③研究開発
かつて世界最大の日用消耗品メーカーであるP&Gが“新製品開発の50%を社外の技術で行う”と宣言したように、いまや研究開発も、積極的に外部の知見を頼るべきだという風潮になってきている。事実、P&Gは成果をあげつつも研究開発費を下げることができたという。
オープンイノベーションとクローズドイノベーションとの違い
クローズドイノベーションは、自社内の経営資源のみを使ったり、自社内で研究開発を行い知識や技術を秘匿することで優位性を保つイノベーションのことをいう。1990年代まで一般的なイノベーションとして考えられており、その閉鎖性から「ブラックボックス化戦略」ともいわれる。
クローズドイノベーションは、グローバル化・IT化・製品のコモディティ化などを背景に、効率や開発力の点で時代に適応できなくなっていった。やがて2000年代から顕著に加速し始めた市場ニーズの変化に対応するべく、他社の知見を積極的に活用するようになった。そこで新たに生まれたのがオープンイノベーションという概念だった。
オープンイノベーションのメリット
なぜ多くの企業がオープンイノベーションを重要視するのか。以下に主要なメリットを3つ挙げた。
①製品開発のスピードが向上する
「自前主義」だった時代は、ライバルの知識や技術を“解剖”し、ほぼゼロの状態から研究を積み重ねるしかなかった。時代の変化が著しい現代においては、研究開発の遅さは致命傷になりうる。外部の知識と技術を利用できるオープンイノベーションなら、よりゴールに近いところから研究開発を行うことができるだろう。
②コストを削減できる
基礎研究のステップを省略できるぶんだけ、研究開発におけるコスト(時間・予算・人員)を抑えることができる。コスト削減は、研究開発リスクの低減を同時に意味する。リスクが低くなるということは、チャレンジできる回数が増えるということだ。
③競合とパートナーシップを築ける
オープンイノベーションは知的な交流を通じて、競合とのパートナーシップを深め、新しいビジネスを展開するチャンスでもある。
オープンイノベーションのデメリット・注意点
オープンイノベーションは綺麗ごとでは済まされない実際的な問題がある。とくに他社との提携(アライアンス)を考えている場合は要注意だ。オープンイノベーションで他社とトラブルが起こったときは、すみやかに公正取引委員会に相談しよう。
①一方的な秘密保持契約
相手の秘密保持の厳守を求められながら、自社の秘密保持に関しては明らかにフェアではない契約を結ばされる。
②知識やノウハウの開示強要
自社がこれまで秘匿していた知識やノウハウを、オープンイノベーションを口実に開示させられたうえ、模倣されてしまう。
③知的財産の無償化の強要
提携によって生み出された新たな知識や技術の無償化を強要されてしまう。自社側の提供や貢献が明らかに相手よりも上回っているにも関わらず、成果の平等性を理由にされることがしばしばある。
④表面的な共同研究による成果・知識の占有
はじめから自社の知識や技術が狙いだったケース。共同開発という名目のもと、最終的には知的財産の占有を主張されてしまうことがある。
オープンイノベーションの方法
一般的に、オープンイノベーションの方法には3つあるといわれている。
①インバウンド型
外部の知識・技術をライセンスインすることで、製品開発の効率を高める。
②アウトバウンド型
社内の知識・技術をライセンスアウトすることで、他者のアイデアと結合し、新製品開発や新規市場の開拓につなげる。
③連携型
事業提携することでインバウンド・アウトバウンド双方のメリットを享受する。
オープンイノベーションの事例
オープンイノベーションに力を入れている海外企業や国内企業の事例をいくつか紹介する。
フィリップス
2000年代から業績が著しく低迷するなか、家庭用電化製品からヘルスケア事業に方向転換を試みたフィリップスは、2010 年に「R&D における外部技術の活用比率を 50%にする」と表明。オープンイノベーションの先駆者P&Gのアドバイスを受けながら、油を使わないヘルシーな調理機「ノンフライヤー」を開発し、爆発的ヒットを記録。オープンイノベーションの好例として有名になった。
ユニリーバ
「Unilever Foundry」は、デジタルマーケティングやEC事業のスタートアップ企業を支援するイノベーション組織だ。スタートアップの募集から協業検討・出資までを「Brief」「Pitch」「Pilot」「Partner」というプロセスで評価し、提携パートナーを積極的に探している。
ソフトバンク
「孫正義育成財団」や「ディープコア」など、異才異能な若者や、AI起業家を積極的に支援し、人材のオープンイノベーションを目指している。
花王
「未来の可能性を共有したい」との考えのもと、自社開発した技術を大々的に公開するなど、オープンイノベーションに積極的な姿勢をみせている。
富士フイルム
「Open Innovation Hub」は、これまで自社で培ってきたコア技術をパートナーと共有し、新しいアイデアを“共創”する場として設置されたブース。日本・アメリカ・ドイツの3拠点を展開している。
セコム
富士フィルムと同様、セコムもアイデアや課題意識を共有して商品化を目指すオープンイノベーションプロジェクト「セコムオープンラボ」を行っている。第3回日本オープンイノベーション大賞にて、経済産業大臣賞を受賞。
日立製作所
東北大学との提携により、1999 年に三次元鋳造シミュレーションシステム「ADSTEFAN」を製品化。鋳造品メーカーの大幅なコスト削減に貢献した。
大阪ガス
ガスによる冷房と暖房を両立する装置を開発するために、ベンチャー企業と提携を結んだ。その際、大阪ガスは「空調以外の技術はそちらが自由に使ってよい」というパートナーシップ関係で交渉した。
オープンイノベーションを始めるにはイノベーションの方向づけが大事
事例からもわかるように、多くの企業はただ闇雲にオープンイノベーションをおこなうのではなく、どんなコト・モノにオープンイノベーションを活用するかという方向づけをしている。
「準備8割、本番2割」といわれるように、オープンイノベーションはその前段階が実質的な決め手になる。さもなければ、いたずらに自社の経営資源を垂れ流すことにもなりかねない。
オープンイノベーションの下準備を万全にするには、「自社理解」「製品理解」「競合理解」はもちろん、「顧客理解」を深めることが大切だ。顧客理解とは、顧客の現実(リアル)を掘り下げ、顧客が直面している課題や悩みを知り、隠された欲求(インサイト)を見つけ出すことをいう。
技術や製品は、あくまでも売り手の都合であることに注意したい。真のイノベーションは、技術志向でも製品志向でもなく、顧客志向によって起こされなければならない。
顧客にとっての価値は何か?そして、自社が顧客に貢献できることは何か?この正しい問いを通してのみ、イノベーションの方向性が見えてくる。
「ドラッカーの読書会」で多くの経営者がイノベーションを起こした理由
わたしたちDラボは、ピーター・F・ドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーとは、“マネジメントの父”と称され、Googleやユニクロをはじめとする多くの経営者に影響を与えた人物である。
この読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
これまでたくさんの人が読書会に参加してきたが、ドラッカーのものの見方・考え方に目を開かれた経営者が、事業で実践して成功を収めた事例は少なくない。そのなかには、製品開発や新規市場開拓といったイノベーションの事例もある。
経営に活かした事例なぜ、ドラッカーを実践するとイノベーションのチャンスを掴むことができるのだろうか。そのヒントはやはり、ドラッカーの「顧客志向」の発想にある。顧客志向の発想が、イノベーションを正しく導いたのである。
顧客が買うものは製品ではない。欲求の充足である。顧客が買うものは価値である。
『マネジメント』より
イノベーションが顧客にいかなる価値をもたらすかを判断できるのは、顧客だけである。
『マネジメント』より
誤解されがちだが、イノベーションはけっして、技術の卓越性だけが成功要因ではない。顧客志向の発想を徹底すれば、製品を開発・改良しなくても、新しい市場を開拓することができる。ドラッカーの読書会は、「誰にでもイノベーションを起こすチャンスがある」ことを共に学び、共に実践し、互いに成果を共有する場だといえるだろう。
もしあなたがイノベーションに興味があるなら、ぜひ一度、無料体験でドラッカーの読書会に来てほしい。オンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会となるだろう。ゼロからドラッカーを学んで、経営や組織マネジメントに活かして成果を出すことが目的なので、「ドラッカーに全然詳しくない」という方はむしろ大歓迎だ。
はじめて読むドラッカー読書会まとめ
オープンイノベーションとは、自社内で閉鎖的に研究開発を行い、知識や技術を蓄積するよりも、組織外部の知識や技術を積極的に取り入れたほうが成果をあげやすいという理論のこと
- 製品開発のスピードが向上する
- コストを削減できる
- 競合とパートナーシップを築ける
- 一方的な秘密保持契約
- 知識やノウハウの開示強要
- 知的財産の無償化の強要
- 表面的な共同研究による成果・知識の占有
- インバウンド型
- アウトバウンド型
- 連携型
オープンイノベーションの下準備を万全にするには、「自社理解」「製品理解」「競合理解」はもちろん、「顧客理解」を深めることが大切。
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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