近年、我が国の政府や企業が「イノベーション人材」に注目している。イノベーション人材とは、事業のイノベーションに貢献しうる高度人材のことである。
先進諸国のなかでも経済成長が停滞気味にあり、賃金の伸びに悩む日本にとって、イノベーションの創出は喫緊の課題といえるだろう。
むろんイノベーションは、企業の行く末をも占うことになるため、あらゆる事業経営者が自分事として関心を向けるべき問題である。
そこで今回は、イノベーション人材の基本的な意味や定義をはじめ、イノベーション人材を獲得する方法や育成するコツを解説する。
この記事を読めば、イノベーション人材の本質を掴むことができ、
- イノベーション人材の条件は才能やカリスマではなく「顧客志向の発想」
- イノベーション人材は学歴やキャリアに左右されない
- 多くの成功企業は組織づくりに力を入れることでイノベーションを起こしている
- 経営者と従業員が同じ目線に立てればイノベーションが生まれやすい環境になる
ことを理解できるようになるだろう。
記事の最後のほうでは、人材に悩んでいた経営者が組織改革を起こすきっかけとなった読書会についても紹介するので、事業の今後に漠然とした不安を抱えている方や、「新規開拓するにはどうすればいいかわからない」という方は、ぜひ最後まで読んでほしい。
目次
イノベーション人材の意味や定義
「イノベーション人材」とは、みずからの技術・能力・アイデアを活かしてイノベーションを起こし、社会経済に貢献する人材のこと。国内では2010年代以降に注目されはじめた概念である。経済産業省の表現では「イノベーションの創出に貢献する高度人材」ともいう。
イノベーション人材が企業に求められる理由
イノベーション人材は、企業が外部から獲得するか、社内で育成するかによって得ることができる。なぜ今日においてイノベーション人材が必要なのだろうか。最大の理由は、日本企業がグローバル市場で確かな競争力を持つためである。
経済産業省のデータによると、2000年代以降、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスは留学で受け入れた「高度外国人材」の定着率が年々高まっているという。それに加え、中国や韓国にも同様の傾向がみられている。
データ自体は2010年代のものであるが、実際、近年ではアジア諸国の発展は目を見張るものがある。その背景には、イノベーション人材の積極的な受け入れと、世界市場を意識した視座の高いビジネスマインドが大いに関係しているだろう。
世界市場で通用する日本企業の醸成と、国内経済の発展には、やはりイノベーション人材の存在は不可欠である。
イノベーション人材の条件
イノベーション人材の条件は厳密には決まっていない。だが、直接的であれ間接的であれ、多くの有名企業や著述家がイノベーションの可能性を秘めた人材について言及している。
以下に、著名な3人の例を挙げてみよう。
- 分析思考能力
- コミュニケーション能力
- 新しい試みに対する意欲
- チームで仕事ができる能力
- 情熱と指導力
- 発見力に優れた人
- 実行力に優れた人
- その両方をバランスよく持った人
- 顧客や社会への貢献意識をもつこと
- 顧客志向の発想で価値を創造すること
- 「予期せぬ成功」を見逃さずチャンスにすること
- 変化を「脅威」ではなく「チャンス」と捉えること
- 「過去の囚人」にならないこと
活躍するイノベーション人材の4類型
企業にとってイノベーションとは何なのか。画期的なプロダクト開発だけがイノベーションではない。イノベーション人材に期待されているのは、「製品・サービス」「生産工程」「組織マネジメント」「マーケティング」のそれぞれにおいて、自分の強みを活かすことである。以下に、イノベーション人材のタイプを4つの視点から整理した。
①製品・サービスにおけるイノベーション人材
革新的な製品やサービスを開発し、社会や経済に変化をもたらすことをプロダクトイノベーションという。イノベーションの“花形”ともいえる領域である。
この分野におけるイノベーション人材は、世の中に広く関心をもち、顧客の現実を深く理解する洞察力が求められる。なぜなら、単なるひらめきや偶然のアイデアだけでは、博打をうつのと変わらないからだ。
②生産工程におけるイノベーション人材
組織の生産性を高めることも、立派なイノベーションのひとつ。有名なのはトヨタのカンバン方式である。生産工程で革新を起こすことを、一般的にプロセスイノベーションともいう。
求められるのは、古くなったやり方を見直すだけでなく、「有効性」と「効率性」とをしっかり区別し、適切な判断を下す意思決定能力だ。たとえ効率が悪くても、事業が成果をあげるために必要な工程ならば省略してはならない。効率を追及するまえに、有効性を検討する思考が深くなければならない。
③組織マネジメントにおけるイノベーション人材
Googleは組織の仕組みづくりでイノベーションを起こした事例として有名だ。Googleは、ミッションや成果を明確に共有したうえで、社員に自由な権限を与えている。その組織文化が、現在のGoogleを支えている。組織マネジメントで求められるのは、人の自己成長を促す環境づくりは何なのかを深く理解していることだ。
④マーケティングにおけるイノベーション人材
マーケティング分野では、市場分析や自社理解を深め、消費者が気づいていない潜在ニーズ(消費者インサイト)を見出したり、既存の製品で新しい顧客を開拓したりする能力が求められる。
つまり、マーケティングにおけるイノベーション人材とは、顧客志向の発想に立ち、「その商品を買うことで、どんな幸せな未来があるのか」を提案できる豊かな想像力と情熱が大切なのだ。
イノベーション人材を獲得する方法は2つ
イノベーション人材を雇うにしろ育成するにしろ、大切なのは、その人の価値観や考え方である。
①外部から集める
中途採用や外部顧問としてイノベーション人材を獲得するケース。選定基準には、本人の実績やキャリアだけでなく、「失敗した経験」や「失敗から学んで成功した経験」を積極的に尋ねるようにしよう。イノベーションとは絶えざるトライ&エラーの繰り返しだ。その人の信念・ものの見方・考え方にこそ、イノベーションの気質が宿っている。
②育成する
「育成する」と聞くと、すぐれたマニュアルや教育方法があるかのように思えるが、それは少し違う。イノベーション人材が育つには、本人が自己成長する環境と機会を与える必要がある。
イノベーション人材の採用・育成を成功させるコツ5選
先ほど紹介したピーター・F・ドラッカーは、Googleやユニクロにも多大な影響を与えた“マネジメントの父”である。そんなドラッカーの思考からは、今回の「イノベーション人材」に関わるヒントをいくつも見出すことができる。そこで以下に、ドラッカーを参考にしつつ、イノベーション人材の採用・育成を正しい方向に導くコツを整理した。
①イノベーションの条件を理解する
まずは企業側が「イノベーションとは何なのか」をあらためて理解しておくことが大切だ。さもなければ、外部から雇うべきなのか、自社で人材を育てるべきなのかという意思決定も曖昧になってしまう。
②組織のミッションを明確にする
そもそも、なぜ自分たちはこの事業を行っているのか。この商品やサービスを世の中に送り出す社会的意義はどこにあるのか。自分たちが市場から消えたとき、困ってしまう顧客はどこにいるのか。
企業はミッションからスタートしなければならない。ミッションなくして、事業の存在を定義できない。ミッションは顧客への貢献がベースである。ミッションが明確になったとき、“やるべきこと”と”やらなくてもいいこと(廃棄すべきこと)”の区別がはっきりしてくる。そこではじめて、イノベーション人材はおのれの能力を発揮できるようになる。
③組織のミッションに共感してくれる人を採用する
イノベーションの成果はカネではない。イノベーションの成果はミッションを果たすこと、すなわち顧客満足である。人材を採用するときは、顧客志向でものごとを考えられるかを見極める必要がある。そもそも自社のミッションに共鳴してくれなければ、イノベーションの入口にも立てないのだ。
組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果をあげるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじまなければならない。同一である必要はない。だが、共存できなければならない。さもなければ、心楽しまず、成果もあがらない。
ドラッカー『プロフェッショナルの条件』より
④金銭的動機の罠を理解する
人のモチベーションは金銭的動機では維持できないという話は、経営学や心理学でよく知られた話である。優秀な人材は正当に評価されるべきだが、イノベーションの動機にはならない。イノベーションの動機は、やはり顧客志向の発想にある。
⑤自己成長の機会を与える
イノベーションは個人の自己成長にかかっているといっても過言ではない。自主的な学びや提案の中にこそ、イノベーションのチャンスがあるからだ。自己成長は、マニュアルや教育指導によって促されるものではない。
「みんなで同じ目線に立つ」がイノベーションのカギ
イノベーション人材を求める人たちの多くが、潜在的に「これからの会社をもっとよくしたい」「新しい市場を開拓しなければ事業の行く末が心配」という欲求や悩みがあるはずだ。
ここまでイノベーション人材に関する一般的な話を展開してきたが、以下では、「けっきょくイノベーション人材とは何なのか」という本質に迫り、あなたが次にステップに進むための提案をする。
たった一人の才能でイノベーションを起こせるほど甘くない
まずはこれが直視しなければならない現実だ。「イノベーション人材」と聞くと、つい「優れた能力を持つ一握りの人物」を想像しがちになる。たしかに、古今東西のイノベーション事例を探れば、ジョブズのような華のある人物もいるだろう。
だが、カリスマの成功物語からスポットを外すと、実はそれ以上に組織の努力と取組によるイノベーションの実例が多いことに気づかされる。
イノベーション人材の分母を増やせば確率があがる
社員一人ひとりがイノベーション人材だ。高額の報酬を支払い、生え抜きの人材を登用するよりも、既存の社員の視座を高くして、思考力・行動力・提案力を底上げしたほうが、イノベーションの確率が高まる。
組織は天才を育成する必要はない。たとえ凡人であっても、成果をあげられるように方向づけるのが組織の役割なのだ。そのためには組織づくりが重要なテーマとなる。
「イノベーション人材の獲得」と「組織づくり」はほぼイコール
人材を生かすも殺すも組織次第である。人の方向づけを誤ると、どんなに能力のある者でも、途端に無能になってしまう。それが組織の恐ろしさであり、強みでもある。イノベーション人材を育成するもっとも堅実な道は、「事業のミッション」と「顧客への貢献」にもとづいて意思決定できる組織づくりである。
経営者からアルバイトまでが「同じ目線」に立つことが理想
ドラッカーは、顧客への貢献のために自分の仕事に責任をもち、意思決定できる者であれば、みなプロフェッショナルであるといった。イノベーションは、才能や運ではなく、プロフェッショナルの仕事を通じてある種の必然的な現象ということもできるだろう。
Googleの社員はみな、一人ひとりが成果のために貢献を考えて行動できるプロフェッショナルだ。ディズニーランドの人材教育では、たとえアルバイトといえども、ディズニーランドが顧客に貢献すべき価値を徹底して浸透させている。スターバックスも同様に、組織のミッションを果たすことで顧客にどんな感動を与えられるかをスタッフに徹底している。
成功事例をみていくと、多くの企業が、製品のイノベーション以上に、組織のイノベーションに力を入れていることがわかる。組織の在り方が、従業員を正しい方向へ導き、結果的にプロダクト・プロセス・マーケティングの分野でイノベーションを起こしているのだ。
あなたもまずは、組織の変革からはじめてみてはいかがだろう。
同じ本を読んで、同じ景色を見る。読書会はイノベーションの“はじめの一歩”。
わたしたちDラボは、ピーター・F・ドラッカーの読書会を運営している。ドラッカーの読書会は、経営者だけでなく、マネジャーや新人までが、互いの興味・関心・視点での違いを意識しつつ、成果をあげるためのマネジメントを学び合う場だ。
実際にわたしたちは、この読書会を通じてイノベーションを起こした経営者をたくさんみてきた。ドラッカーのものの見方・考え方に目を開かれた経営者が、事業で実践して成功を収めたのだ。そのなかには、製品開発や新規市場開拓といったイノベーションの事例もある。
経営に活かした事例ドラッカーの読書会は、「誰にでもイノベーションを起こすチャンスがある」ことを、経営者と従業員が共に学び、共に実践し、互いに成果を共有する場だといえるだろう。
もしあなたがイノベーションに興味があるなら、ぜひ一度、社員と一緒にドラッカーの読書会に来てほしい。無料体験も実施中だ。オンラインで開催しているため、全国の経営者やビジネスマンとつながれる貴重な機会にもなるだろう。
ゼロからドラッカーを学んで、経営や組織マネジメントに活かして成果を出すことが目的なので、「ドラッカーに全然詳しくない」という方はむしろ大歓迎だ。
はじめて読むドラッカー読書会まとめ
「イノベーション人材」とは、みずからの技術・能力・アイデアを活かしてイノベーションを起こし、社会経済に貢献する人材のこと。
日本企業がグローバル市場で確かな競争力を持てるようにするため。
元Google副社長ジョナサン・ローゼンバーグ
- 分析思考能力
- コミュニケーション能力
- 新しい試みに対する意欲
- チームで仕事ができる能力
- 情熱と指導力
経営学者クレイトン・クリステンセン
- 発見力に優れた人
- 実行力に優れた人
- その両方をバランスよく持った人
ピーター・F・ドラッカー
- 顧客や社会への貢献意識をもつこと
- 顧客志向の発想で価値を創造すること
- 「予期せぬ成功」を見逃さずチャンスにすること
- 変化を「脅威」ではなく「チャンス」と捉えること
- 「過去の囚人」にならないこと
- 製品・サービス型
- 生産工程型
- 組織マネジメント型
- マーケティング型
- 外部から集める
- 育成する
- イノベーションの条件を理解する
- 組織のミッションを明確にする
- 組織のミッションに共感してくれる人を採用する
- 金銭的動機の罠を理解する
- 自己成長の機会を与える
- たった一人の才能でイノベーションを起こせるほど甘くない
- イノベーション人材の分母を増やせば確率があがる
- 「イノベーション人材の獲得」と「組織づくり」はほぼイコール
- 経営者からアルバイトまでが「同じ目線」に立つことが理想
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
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