「ドラッカーの本を読んでみたいのだけれども、どれから読んでいいか教えて欲しい」という問いに対する答えは、その人の地位や経験、期待されているものによって異なります。今回紹介する3冊+αは特にその意味合いが強い領域です。
この連載で毎回書いていますが、「ドラッカーの本でも読んでおけ」という言葉には、仕事の役に立つからという意味が込められています。したがってドラッカー教授の言葉を実践で使って成果を出すという意識が大切です。
私たちの読書会―「実践するマネジメント読書会®」では、本そのものではなく目的別にプログラムを開発してきました。その経験からドラッカー本のどの章を、どんな順番で読めばいいのかを長年考えてきました。この連載ではこの一端を紹介しています。
今回紹介する3冊は、レギュラーの「実践するマネジメント読書会®」プログラムには含まれていません。ときおりスペシャルバージョンの読書会で読んでいるものです(2018年は『産業人の未来』、2019年は『企業とは何か』―予定)。
第5回は、「ドラッカーの本でも読んでおけ」と言われても一見して敬遠する領域の3冊です。しかしこの部分を押さえずしてマネジメントの真の社会的価値を知ることはできません。仮にマネジメントを単なる成功の方法と勘違いしている向きがあれば、ぜひとも読むべきでしょう。
企業を社会における機関(道具)として位置づけ、企業(組織)を通して一人ひとりに社会的役割を与えるというフレームは、ドラッカー・マネジメントの根本原理です。それは私企業という自由な選択肢をもつ者が守るべき「公(おおやけ)」性を示しています。この原理にしたがうことは、社会を支えるメインプレイヤーとしての大切なパスポートです。
今回は、ドラッカー・マネジメントの原点である社会的機関としての企業と社会的方法としてのマネジメントという「マネジメントの一丁目一番地」を理解するために読むべき3冊+αを推薦します。
初期三部作といわれる3冊―『「経済人」の終わり』(1939)、『産業人の未来』(1942)、『企業とは何か』(1946)に加えて『マネジメント』(1973)を推薦します。
以下、<読むべき章>と<3冊+αの概要>と<一部内容の紹介>についてです。
読むべき本と章
①『「経済人」の終わり』(1939)第2章、第3章、第7章を中心に
②『産業人の未来』(1942)第2章、第4章、第6章、第8章、第9章パート1を中心に
③『企業とは何か』(1946)第3部を中心に、第1章、第2章も
④『マネジメント』(1973)上巻まえがきと下巻結論
※特にこの一冊ということであれば②『産業人の未来』をお薦めします。
3冊+αの概要
上記に挙げた①~③冊は「政治三部作」と呼ばれています。共通するテーマは「自由で機能する社会をいかにつくるか」です。「企業」も「マネジメント」もそのためにあることを理解するために必要な3冊です。企業の公的性格を確認し、マネジメントとは自由で機能する社会をつくるために必須のものであることが理解できます。
①『「経済人」の終わり』では戦争と大恐慌という不合理を前に大衆は、安定を手にするために自由を犠牲にし、ファシズム全体主義を受け入れた過去を描写します。しかし、人類が自由を手放すという過ちは、過去のものではありません。これからも十分に考えられます。
②ドラッカー教授は、「自由で機能する社会」のための条件を『産業人の未来』で明らかにしました。第6章で「自由とは何か」を第2章で「機能する社会とは何か」を問います。また第8章と第9章では保守主義による社会の変革の仕方を示し、「自由で機能する社会」を構築する具体的な原理を示しました。
③教授は『産業人の未来』で提示した条件を具体的に適用するため、次の時代の「代表的存在」となることを予見していた「企業」を通じて社会を観ることを念願していました。何度断られ挫折の果てに、当時世界一の製造業GM(ゼネラルモーターズ)を内部から観る機会に恵まれました。社会における企業の位置づけや社会に属する一人ひとりが企業で手にする役割のあり方を具体的に明らかにしました『企業とは何か』。
④こうして「自由で機能する社会をつくる」というテーマを掲げたドラッカー教授の長い旅は始まります。そしてそのテーマに対する答えを約30年後に『マネジメント』で記し、一応の終着点を迎えます。『マネジメント』の「まえがき」にやや唐突に記されたファシズム全体主義という言葉がそのことを象徴的に表しています。
ドラッカー教授のマネジメントは、単に一企業が成功するための方法を記したものではありません。本来、社会の道具としての企業とその使い方であるマネジメントという位置づけを理解しないで社会的道具を用いるライセンスは与えられません。すべての経営者やマネジャー、そしてそこではたく人々に理解してもらいたい最重要のテーマです。
こんなことが書いてあります~一部内容の紹介
「社会というものは、一人ひとりの人間に対して『位置』と『役割』を与え、重要な社会権力が『正統性』をもたなければ機能しない」p.24
ドラッカー教授は、『産業人の未来』テーマは、「いかにして産業社会を自由社会として構築するかである」としました。同書で、そのための条件を示しました。教授はそれを「社会についての一般理論」とし、2つの条件を示しました。すなわち①一人ひとりの人間に対して『位置』と『役割』を与えること、②重要な社会権力が『正統性』をもつことです。
「一人ひとりの人間が社会的な位置と役割を与えられなければ、社会は成立せず、大量の分子が目的も目標もなく飛び回るばかりである」p.24
これらの原理は現代社会においても通用します。すなわち「企業に使われている」という労働観は過去のものとして葬り去るときがきたと筆者は考えています。昨今のフリーターの増加、複業や兼業を認める企業の増加という様々な兆しは、企業(組織)が社会の中で果たす役割を原点に戻って考え直すべきときであることを示唆しています。同書の現代的意義を感じながら読んでみましょう。
「ドラッカーの本でも読んでおけ」という言葉に応えるための本を読む順番(連載記事)
第1回:すべての社会人の方に…
第3回:新規事業の立ち上げなど事業のマネジメントに悩むマネジャーや経営者の方に…
第5回:ドラッカーマネジメントの「一丁目一番地」を知り、真のマネジメントを行いたい方に…
第6回:未来の社会はどのように変化するのか?予見力を高めたい方に…
第7回:<付録>目的別に読む理由
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