「ドラッカーの本を読んでみたいのだけれども、どれから読んでいいか教えて欲しい」という問いに対する答えは、その人の地位や経験、期待されているものによって異なります。とくに今回紹介する領域は、ドラッカーの著作群を「マネジメント」と二分する領域で、「社会生態学」と呼ばれています。著作数も多く、今回はその代表的なものを紹介します。
社会の変化を知り、事前に準備するために必要です。事前に準備することはマネジメントには欠かせない活動です。特に新しい現実に対応した事業の変革をイノベーションといいます。
もう一つ事前に準備する領域に「人の働き方」があります。社会の変化に伴い仕事が変化し、「人の働き方」が変化します。この領域は、仕事のマネジメントと人のマネジメントに影響を及ぼすばかりでなく、セルフマネジメントにとっても重要です。
たとえば人工知能というテクノロジーの変化がどのように仕事を変え、人の働き方に影響を及ぼすのかを予見することなどがこれに当ります。
この連載で毎回書いていますが、「ドラッカーの本でも読んでおけ」という言葉には、仕事の役に立つからという意味が込められています。ドラッカー教授の言葉を実践に使って成果を出すという意識が大切です。
私たちの読書会―「実践するマネジメント読書会®」では、本そのものではなく目的別にプログラムを開発してきました。その経験からドラッカー本のどの章を、どんな順番で読めばいいのかを長年考えてきました。この連載ではこの一端を紹介しています。
今回紹介する4冊は、レギュラーの「実践するマネジメント読書会®」プログラムには含まれていませんが、ときおりスペシャルバージョンの読書会で読んでいるものです(『断絶の時代』など)。
読むべき本と章
①『断絶の時代』(1969)第1章、第2章、第3章、第8章、第9章、第12章、第13章、第15章を中心に
②『ポスト資本主義社会』(1993)序章、第1章、第2章、第4章、第10章、第12章を中心に
③『ネクスト・ソサェテイ』(2002)第1部―第1章、第2章、第3章、第5章、第6章、第2部―第1章、第4章を中心に
④『すでに起こった未来』(1993)第8章、第9章、最終章
4冊の概要
上記に挙げた①②はエターナル版です。社会の変化には様々な領域がありますが、主に組織社会、知識社会及びテクノロジーと人口を選んでみました。その他にもグローバル経済、政治などの領域があります。
①『断絶の時代』が書かれて今年(2019)で50年です。これまでの継続の時代から非継続(断絶)の時代が到来したことを世に告げるためにかかれた書です。50年経った今もその時代は続いているといえます。非連続の時代には、量的変化ではなく質的変化に注目することが重要です。小さな質的変化がのちに代表的存在や中心的存在になっていきます。できるかぎり早い時期で変化の兆しをとらえ、変化に対応するのが社会生態学の目的です。
②『ポスト資本主義社会』は、『断絶の時代』から20年ほど経過した社会を描写しています。主要な社会の変化は、『断絶の時代』で述べられたものとほとんど同じです。ドラッカー教授の慧眼に驚くばかりです。両書を読んで変化が社会に与える影響が変わってきていることを読み取るのも社会生態学的には重要です。なぜならその変化は今に連なっており、その変化が未来に向けてどのような影響を与えるかを観ていく必要があるからです。
③『ネクスト・ソサェテイ』は、2000年前後に書かれた論文を集めたものです。「IT社会のゆくえ」とした第2部が本書の特徴を示しています。1990年代後半から急速に普及したテクノロジーであるインターネットに関する言及は圧巻です。かつての産業革命における蒸気機関とインターネットは同じであるとし、真に社会にインパクトを与えたのは鉄道であり、それが現代ではeコマースであると喝破しました。
④『すでに起こった未来』も論文集です。かなり特徴のある論文ぞろいです。今回はその中のテクノロジー領域の論文を紹介しました。科学と技術の関係に関する卓見、古代の灌漑技術にまで伸ばす射程の長さに驚かされます。最終章は、必読の章「ある社会生態学者の回想」です。社会生態学の定義や拠って立つ背景が述べられています。何度も読み返したい章です。
※特にこの一冊ということであれば①『断絶の時代』をお薦めします。
こんなことが書いてあります~一部内容の紹介
「西洋の歴史では、数百年に一度際立った転換が起こる。世界は歴史の境界を越える。社会は数十年をかけて次の新しい時代に備える。世界観を変え、価値観を変える。社会構造を変え、政治構造を変える。技術と芸術を変え、機関を変える。やがて50年後には新しい世界が生まれる」『ポスト資本主義社会』p.2
印象的な書き出しはドラッカー教授の十八番です。1960年代に始まった非継続の時代には、昨日の世界観と今日の世界観に間に大きな違いを生み出します。たとえばインターネット以前と以後では情報に関する価値観が劇的に変化しています。それに伴いビジネスも大きく変化しました。
インターネットの普及によりGAFAといわれる存在が経済の中心に陣取ることになりました。20年前には考えも及ばなかった事態です。これにはスマートフォンの出現が大きな影響を及ぼしていると言われています。2007年に出たiPhone以前と以後でも私たちの行動様式が変化しました。
インターネットやスマートフォンは、テクノロジー領域の一変化にすぎません。その他にも日本の高齢社会や人口減少という変化は、この50年間に起こったことです。このようは変化が社会に与えるインパクト、その影響を受けた私たち人間の変化が社会に与える影響を俯瞰した視座で観るのが社会生態学です。
ドラッカー教授は、社会生態学の目的を「正しい行動」にあると言います。実は、企業を代表とする組織社会も戦後生まれたものです。一つの社会の変化です。組織が成果をあげるための方法論をドラッカー教授は、「マネジメント」という呼び名で再定義しました。GMをはじめとした先行する現実あったからこそ体系的な知識として世に出すことができました。
その意味では、企業(組織)もマネジメントも社会生態学の産物といえます。ドラッカー教授は、『ネクスト・ソサェテイ』の第5章のタイトルを「企業のかたちが変わる」としました。ドラッカー教授が『企業とは何か』を出したのが1939年、60年が経過してその「企業のかたちが変わる」と宣言しました。マネジメントが不変のものでないことが解ります。ドラッカー教授が残したマネジメントという知識体系は、社会の変化を受け、変化させながら用いるべきものなのです。
その意味でも社会生態学を修得することは、自らマネジメントという知識体系を更新していく力を身につけることを意味します。ドラッカー教授は、このような形でマネジメントと知識体系に命を吹き込み、自身が死してなお若々しく生成発展するものを目指しました。人類にとって貴重な遺産を引き継ぐのは、日々文明を前進させる現場で働く人たちの実践にかかっているのです。理論は実践という現実に従うからです。
「ドラッカーの本でも読んでおけ」という言葉に応えるための本を読む順番(連載記事)
第1回:すべての社会人の方に…
第3回:新規事業の立ち上げなど事業のマネジメントに悩むマネジャーや経営者の方に…
第5回:ドラッカーマネジメントの「一丁目一番地」を知り、真のマネジメントを行いたい方に…
第6回:未来の社会はどのように変化するのか?予見力を高めたい方に…
第7回:<付録>目的別に読む理由
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