「あなたのせいで辞める」。かなりショッキングな言葉ですよね。直接言われないにしても、「けっきょくこの人は、あなたのせいで辞めると言いたいんだな」ということもあるでしょう。
少なくとも、この記事を読んでいるあなたは、「あなたのせいで辞める」と言われたことをかなり気にしているはずです。悪意があって相手に接していたわけではなく、むしろ仕事に情熱をもって取り組んでいたのに、こんなことになるなんてショックだ、心外だ……。そう思っていませんか?
なぜわかるかというと、仕事熱心な人ほど、間違えたマネジメントをしてしまう傾向があるからです。その不適切なマネジメントが、人間関係のひずみを生み出し、「あなたのせいで辞める」という言動となって表出したのです。
「あなたのせいで辞める」(あるいはそれに近い言葉を言われた)のが、一度だけで終わらず、過去に何度もあったとしたら、マネジメントの欠陥状態はなおさら深刻です。
マネジメントの開発者であるピーター・F・ドラッカー教授は、マネジメントは【個人が組織を通じて成果をあげつつ、自己実現を果たす】という両輪が大前提と考えました。ただ単に成果をあげるだけではだめなのです。成果をあげ、かつ自己実現を果たす。この2つがセットでなければ、組織はバランスを崩し、やがて破綻してしまいます。組織は人生を豊かにする場所でなくてはならない、とドラッカー教授は考えていました。
しかし多くの企業が、成果があがっていることに満足し(あるいは成果をあげることだけに集中し)、働く人の自己充足感が低いことを問題視しません。「それはあなた個人の問題だから」と一蹴してしまう人もいるでしょう。
「組織」は成果なくして存在できませんが、組織の主役はあくまでも「人」です。人を犠牲にしながら一時的には成果をあげられたとしても、長期的にみると組織じたいが存在できなくなります。理由はシンプルで、人が去っていくからです。
万が一にも仕事と人のマネジメントを誤るならば、いかにトップマネジメントが巧みに事業をマネジメントしようとも、もはや事業上の成果は期待しえない。仕事と人のマネジメントに失敗したのでは、いかなる成果といえども、幻影というべきであって無意味である。そのようなことでは、競争力を失うほどにコストは上昇する。階層間の対立は深まり、事業の継続は不可能となる。
『マネジメント』より
残念ながら人口減少時代はこれからも続きます。「あなたは組織のために何ができるか」を働く人に問うのは時代遅れになっているのかもしれません。これからは「あなたの組織は、働く人が自己実現を果たすために何ができるか」を逆に問われる時代がやってきます。
驚くべきことに、ドラッカー教授は1974年の時点ですでに指摘しています。
人材を確保するには、マーケティング的な目標をもつことが必要である。「必要な人材を惹きつけ留まってもらうには、彼らの仕事をどのようなものにする必要があるか。求職市場にどのような人たちがいるか。彼らの関心を惹くにはどうしたらよいか」を考えなければならない。(中略)産業が衰退する最初の兆候は、能力と意欲のある者に訴える力がなくなることである。
『マネジメント』より
あくまでも退職は個人のライフステージにおける意思決定なので止めることはできません。しかし退職して何年も経っているのに「あなたのおかげで今があります」と言われる組織って、最高に魅力的だと思いませんか?その人の人生に良い影響を与えられたことは、かならず自分の人生の誇りになるはずです。
この記事は、実践するマネジメント読書会®を主催するDラボが、「あなたのせいで辞める」と言われたことをきっかけに、「あなたのおかげで成長できた」と言われる組織づくりを実現してほしいと願って書きました。ぜひ最後までお付き合いください。
目次
「あなたのせいで辞める」と言われる人が犯しがちな失敗TOP3【要チェック】
相手に「あなたのせいで辞める」と言わせてしまう人は、どんな問題を抱えているのでしょうか。以下に3つの失敗を紹介します。共通点は「相手はあなたと接すると、何らかの理由で自己肯定感を損なっている可能性がある」ということです。
※ここでは「悪意はなく、良かれと思って部下に接していたはずなのに、結果的に退職に追い込んでしまった」が大前提です※
①相手を見下す発言が多い
自分より仕事ができるかどうかで相手を判断する人は、つい相手を見下すような発言をしてしまうものです。
悪意があって発言するのは論外ですが、厄介なのは、無意識にやってしまっている人がいるということです。
本人は無自覚なので、あとから指摘されて「え?私はそんなこと言いませんよ」なんてびっくりすることもあるくらいです(これは自己認知の問題なので話を横に置いておきます)。
とりもなおさず、相手を見下して自己肯定感を下げてしまう人は、
「これくらいは常識なんだが、いまのレベルでは仕方ないかもね」
「これくらいのことは当然だと思うんだけどね」
「その考え方は甘すぎるから改めたほうがいいよ」
など、表現は違えども、その人にとっての当たり前や常識を押し付ける傾向にあります。
相手からすれば、自分の生き方や考え方を否定された気がして自己肯定感がガクッと下がります。
負けず嫌いなタイプは、上司からそんなことを言われて“なにくそ”という反骨心でやる気がでることもあるでしょう。しかしそれは、ただそれだけのことであって、他の人に当てはめるべき“当然”のケースではありません。
②相手の強みよりも弱みに目を向けた
マネジメントの開発者であるドラッカー教授は、次のように言います。
弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。
『経営者の条件』より
昔はよく、教師や親から「弱みや苦手を克服しなさい」と教えられてきました。試験で総合点数を競う「学校」では、それが通用するかもしれませんが、「社会」では強みや得意を発揮して成果を上げることのほうが何よりも価値があります。
組織は、「組織の外にある世界」(顧客や社会)に貢献を果たしてこそ意味があります。
成果をあげるためには、人という資源を最大限に活用するために、「強み」に目を向けなければなりません。そもそも弱みを克服したところで、せいぜい及第点程度の成果しか上げられません。時間と労力のわりには生産性が低いわけです。
時間は希少な資源である。時間を管理できなければ、何も管理できない。
『プロフェッショナルの条件』より
相手の弱みに目を向けることを、ドラッカー教授は上司として「無責任」とさえ言いました。
弱みに焦点を合わせることは、間違っているだけでなく、無責任である。上司は、組織に対して、部下一人ひとりの強みを可能なかぎり生かす責任がある。何にもまして、部下に対して、彼らの強みを最大限に生かす責任がある。
『プロフェッショナルの条件』より
何よりも人の強みを活かし、成果をあげさせることは、その人の自己肯定感を高め、人生を豊かにします。
重要なことは、人を変えることではない。人のあらゆる強み、活力、意欲を動員し、そうすることによって全体の能力を増大させることである。
『経営者の条件』より
③「主体性がない」と責めた
「もっと主体性をもって仕事しようよ」という言葉を、相手に放ったことはありませんか?成果に焦ると、ついそんなことを言ってしまう気持ちもわかります。
なるほど確かに、組織が成果をあげるには、働く人がみんな主体性をもって生き生きと行動することが大事かもしれません。まさに正論です。しかし正論で相手を変えようとすることは、マネジメントのタブーです。
いかに正論であろうとも、いや正論なればこそ、押しつけられた信条や価値観は社員にとってむき出しの専制にほかならない。人間重視の経営の基本は、個として社員を遇すること、そして強みに着眼して組織的に成果をあげるような環境を整えること、それだけである。ドラッカーによれば、それ以上のことは明らかに越権である。マネジメントは個人の内面や自発性に一ミリたりとも立ち入ることを許さない。
上田 淳生/井坂 康志『ドラッカー入門 新版』より
「主体性を持て」と言われて主体性を持てるようになるほど、人は簡単ではありません。
なぜなら人は感情があり、価値観を持って生きている存在だからです。「人は簡単に変えられない」という、あまりに当たり前すぎて見過ごしている事実こそ、実は「主体性がない」という問題を改善するための急所なのです。
私たちは知らず知らずのうちに、組織を中心にものを考えたり、判断したりします。しかしドラッカー教授は、あくまでも「組織は道具」だといいます。個性も考え方も価値観も異なる人々が、組織という道具を通じて一人ではなしえない成果を出す。そして、個人が自己実現を果たすための道具でもあります。当然、道具(手段)が思考や価値観の中心となるのはおかしなことです。組織の中心はあくまでも「人」なのです。
「あなたは主体性がない」と責める人は、「ではどうしていま、その人は主体性を発揮しない/できないのか」という根本的な問いが欠けています。「主体性を持てない」という現象の背後にある、相手の心情・感情・価値観や組織環境に目を向けていないのです。つまりマネジメントの視点が欠けているのです。
マネジメントの視点が欠けていると、「主体性を発揮できないあなた自身に問題がある」という個人攻撃が始まります。「主体性を発揮しないということは顧客を軽んじているということだ」「あなたの価値観が根本的に間違っているんだ」「やる気がないんだ」と、個人を否定する言葉が増えてきます。
これはマネジメントにおける最悪の結末です。なぜ最悪なのかといえば、人という資源を活かして社会を良くすることがマネジメントの本質だからです。主体性を個人の問題に帰着して責めることは、人という資源をダメにしてしまう最悪の結末です。
「あなたのせいで辞める」と言われないためにはマネジメント能力を身につけよう【対策方法】
親であり教師であれと、ドラッカーは説く。「その者の下で息子を働かせたいか」と問う。部下の人生に関わる存在であれということだ。真摯さのない者をマネジャーにすれば、部下の成長を阻害し、やがて人と組織を破壊する。
『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(著:佐藤等/編:清水祥行)
相手に「あなたのせいで辞める」と言わせてしまう接し方・組織の在り方を悔やんでいるあなたは、すでに新しい一歩を踏み出し始めているはず。「働く人を幸せにする組織をつくりたい」と願っているなら、きっとそうなると信じています。
「あなたのせいで辞める」と言われるのではなく、去っていく人たちからも「あなたのおかげで成長できた」と何年後も言われ続ける組織をつくろうではありませんか。
そのためには、マネジメントという“道具”を正しく使いこなさなければなりません。
マネジメント能力を身につける方法
マネジメントは、教わるものではなく、実践を通して身につけるものです。ドラッカー教授も「マネジメント能力は誰かに教えてもらうことはできない」と述べています。
私たちは、学校で教わるように、マネジメントも座学で学べると思い込んでしまいがちです。しかし、マネジメントの教科書はなく、教える先生もいません。
車の運転を例えれば、マニュアルを読んだだけでは運転できません。実際に運転し、失敗を繰り返しながら、感覚を掴んでいきます。マネジメントも同じです。本を読んだり、話を聞いたりしても、実践しなければ何も変わりません。
マネジメント能力は、時間管理、コミュニケーション、意思決定など、様々な要素から成り立ちます。これらの能力は、トレーニングによって身につけることができます。九九を覚えるように、反復練習が重要です。
つまり、マネジメントは、実践を通して、そして継続的な努力によって身につけるものなのです。
マネジメントのおすすめの本
①入門書の決定版!ドラッカー実践で成功した18の会社事例を徹底解説
ドラッカー学会の理事であり、ドラッカーの読書会を主催する佐藤 等 先生(公認会計士・税理士)が著者。本書はドラッカーを実践して事業が好転した中小企業の実例を解説しています。「あなたのせいで辞める」と言われた人にもグサッと刺さる事例もありますよ。ドラッカーの入門として、間違いなく必読の書です。
②成果をあげる思考習慣を身につける一冊
『実践するドラッカー』(通称:実ドラ)は、テーマごとにドラッカーの原理原則が解説されているため、読書会でも大人気の一冊です。とくに『思考編』は、ドラッカーの初心者にぜひ読んでほしい内容となっています。
読書が苦手な人でも成果をあげた「実践するマネジメント読書会」
実践するマネジメント読書会®は、“マネジメントの父”ことピーター・F・ドラッカーの著作を読んで実践する読書会です。
2003年に札幌で立ち上がり、現在は全国にまで規模が拡大し、経営者・個人事業主・会社員・学生など、さまざまな参加者が成果をあげています。
ドラッカーを実践してお店をつくった人もいます!
ドラッカーを実践して成果を出した事例
立ち上げ人は『実践するドラッカー』『ドラッカーに学ぶ人間学』などの著者・佐藤等氏(ドラッカー学会理事)。とくに2010年刊行以来ロングセラーとなっている『実践するドラッカー』シリーズは、なにを隠そう実践するマネジメント読書会®から生まれたものなのです。
なぜかみんなニコニコ!?読書会の面白さ
ここまで読んだあなたは、もしかしたら「難しそう」「堅苦しそう」な印象を受けたかもしれません。
ところが実際は、なぜかみんなニコニコ、とても穏やかな雰囲気です。みんな悩みを抱えているはずなのに……。なぜでしょう?
「この文章なんだけど、うちの会社ではね……」「いまの自分にドンピシャリな言葉を見つけました」「うちの会社の状況にそっくりで驚きました」――参加してみればわかる、読書会の不思議な雰囲気。20年以上続く魅力のひとつかもしれません。
実践するマネジメント読書会®の立役者であり、ドラッカーから“わが分身”と評された翻訳者の上田惇生先生は、読書会の雰囲気について、次のように言いました。
ドラッカーの本の指定された章を読んで、気に入ったところ、気になったところに線を引いてくる。そして、なぜそこに線を引いたかを発表し合う。ただそれだけのドラッカー読書会にみながにこにこして集まってくる。電車で来る人も、車で来る人もいる。札幌に大阪から飛行機で来る人もいる。
『実践するドラッカー [行動編] 』より
私たちの読書会は、単なる本の輪読会ではありません。
ドラッカー教授の言葉を通して、自己成長を促し、より豊かな人生を送るためのきっかけとなる場です。
もしご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度ご参加ください!
詳細については、下記までお気軽にお問い合わせください。
Dラボ
当サイトDラボを運営しております。
ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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