この記事は、「部下を退職に追い込んでしまった」「信頼していた部下なのに……」「何が悪かったのだろう」と悩んでいる方のために書きました。どんな事情であれ、部下を退職に追い込んでしまった経験をもつ人は少なくありません。組織もけっきょく人間関係の世界ですから、関係の摩擦は現実として起こりえます。
しかしこの記事で「自分が悪いのか?」「あいつが悪いのか?」というジャッジを行うつもりはありません。その結論には、マネジメントにおける前向きな意味はないからです。
大切なのは、「退職に追い込んでしまった」という出来事が、マネジメントの失敗としてあらわれた現象である、という事実です。
この記事では、実践するマネジメント読書会®を主催するDラボが、マネジメントの開発者であるピーター・F・ドラッカー教授の金言を借りながら、退職に追い込んでしまった原因と、これからの改善策をお伝えします。
「退職に追い込んでしまった」と検索してこの記事にたどり着いたあなたは、この出来事から何か多くのことを学ぼうとしているはずです。かならず新しい気づきを得られると思います。ぜひ最後までお付き合いください。
間違いや失敗をしたことのない者だけは信用してはならない。そのような者は、無難なこと、安全なこと、つまらないことにしか手をつけない。人は優れているほど多くの間違いをおかす。優れているほど新しいことを行うからである。
『マネジメント』より
目次
まずは組織の状態をチェックしよう
「退職に追い込んだのは自分のせいだ」と決めつける前に、まずは組織を俯瞰して冷静に見直してみましょう。退職という意思決定は、さまざまなことが複雑に絡んでいますので、あなたとの人間関係がトリガーになった可能性はありますが、一概にすべてあなたのせいとは言い切れません。
☑職場環境
- ハラスメントやパワハラが存在する。
- 過度な労働時間や業務量により、心身に負担がかかる。
- キャリアアップの機会が少ない。
- 会社の方針や経営状況に不満を持つ。
- 組織の価値観と自分の価値観が合わない
- 仕事を通じて自己実現欲求を満たせない
- 自分の専門領域ではキャリアアップを見込めないと判断した
など。
☑上司との関係性
- 上司とのコミュニケーションがうまくいかない。
- 上司から適切な指導や評価が得られない。
- 上司の指示が不明確であったり、頻繁に変わる。
など。
☑同僚との関係性
- 同僚から孤立させられる。
- 同僚との間で人間関係のトラブルが絶えない。
など。
上記のチェックポイントは、すべてマネジメントに関わる問題です。この記事では「上司との関係性」に特化して取り上げます。
部下を退職に追い込んでしまう理由3つ
ここでは、「悪意のない人が、良かれと思って部下に接していたはずなのに、結果的に退職に追い込んでしまった」を前提にしています。
①相手の自己肯定感を下げることを言う
仕事に情熱のある人や、自分は仕事ができる人間だと自信のある人は、「仕事とはこういうものだ」という信条・哲学を持っているものです。それ自体は素晴らしいことなのですが、あくまでも個人の価値観に過ぎないことに注意しましょう。
自分の価値観を「正解」として相手に押し付けることは、マネジメントのタブーです。なぜなら相手の価値観を否定することにつながるからです。相手からすれば、自分の生き方や考え方を否定された気がして自己肯定感がガクッと下がります。
そして劣等感に苛まれていき、仕事から自己充足を得ることができず、続けることが困難になっていきます。やがて視座が下がっていき、仕事の質は下がり、ますます仕事が嫌になっていくわけです。
マネジメントは「人間は一人ひとり、信条・価値観・性格・仕事の仕方・得意・不得意が違う」という前提から出発します。
重要なことは、人を変えることではない。人のあらゆる強み、活力、意欲を動員し、そうすることによって全体の能力を増大させることである。
『経営者の条件』より
②部下の強みよりも弱みに目を向けた
弱みからは何も生まれない。結果を生むには利用できるかぎりの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを動員しなければならない。強みこそが機会である。強みを生かすことは組織に特有の機能である。
『経営者の条件』より
ドラッカー教授は、組織は働く人の強みを活かすことで成果が出ると説きました。 弱みを克服するのではなく、強みを伸ばすことで、個人の能力を最大限に引き出し、組織全体の成果を高めることができます。弱みを克服しようとするのは、足が遅い人が、早く走る練習をするようなものです。
ですからドラッカー教授は、上司が「弱みに焦点を合わせることは、無責任である」とさえ述べています。上司は、部下の強みを最大限に生かす責任があるのです。強みを活かすことは、個人の成長だけでなく、組織全体の活性化にもつながります。
強みを伸ばすということは、弱みを無視してよいということではない。弱みには常に関心を払わなければならない。しかし人が弱みを克服するのは、強みを伸ばすことによってである。
『非営利組織の経営』より
③部下に求める成果が曖昧
意外に見落とされがちなマネジメントの落とし穴です。上司として部下に何を期待するのか? これを明確にしなければ、部下はどんな努力に集中すればいいのかわからなくなります。
ポジションや役割を与えられていないのに漠然と「野球をうまくなれ」と監督に言われたって、うまくなりようがありません。「あなたは先発よりもクローザーとしての活躍を大いに期待している。あなたの決め球はストレートとスライダーだ。コントロールが悪くてもいい。凡打を量産できるように、ますます磨いてほしい」と監督(上司)から期待されたとき、その人はあらゆる思考・行動・強みを、期待された成果に総動員できるのです。
上記の例でいうと監督は、次の6つを明確にして選手とコミュニケーションをとりました。
- ポジション(=仕事)➡ピッチャー
- 役割(=組織内の立ち位置)➡クローザー(抑え投手)
- 強み➡ストレートとスライダー
- 弱み➡コントロールが悪いこと
- 期待する成果➡抑え投手としての活躍
- 集中すべきこと➡凡打を量産するためのピッチング練習
監督(上司)に、このような位置づけと役割を明確にしてくれれば、選手はたとえば「ならば、登板したときの被安打数をX本を目標にしよう」というように、モチベーションにもとづいて自己管理目標をつくれるようになります。これが本当のMBO(Monegement by Objectives and self-control)です。MBOは働きがい・自己実現の充実と密接にかかわります。
ドラッカー教授は、人というのは「位置づけと役割を持たなければ、見捨てられし者、根なし草である」と言いました(『産業人の未来』)。相手に成果を求めるということは、これだけのことを丁寧に説明し、時間をかけなくてはなりません。
人のために時間を数分使うことはまったく非生産的である。何かを伝えるにはまとまった時間が必要である。方向づけや計画や仕事の仕方について十五分で話せると思っている者は、単にそう思い込んでいるだけである。肝心なことをわからせ何かを変えたいのであれば一時間はかかる。何らかの人間関係を築くには、はるかに多くの時間を必要とする。
『経営者の条件』より
成果の定義が曖昧だと、次のような悲劇が起こります。
自分なりに考えて努力する➡周囲から求められていないことに努力を費やしたので結果につながらない➡「報われない」という負の感情が強くなる➡自己肯定感が下がる➡仕事における自分の居場所がない錯覚に囚われる➡仕事がつまらなくなる➡辞める
「好きなようにやっていいよ」「自分なりに考えて努力してみて」は、とても危険な言葉です。もちろん自分で考え、工夫することは大事です。しかし、創意工夫は、ゴールが明確であったときはじめて意味を持ちます。ゴールを明確に共有するためには、相互理解が不可欠です。
あなたの部下は、もしかしたら、「なじみのない部屋で、目隠しをされ、ルールを知らないゲームをさせられている」状態になっていたかもしれません(『産業人の未来』)。
④目標を相手に押し付ける
ドラッカー教授は、組織や上司が目標を与え、その達成を管理するやり方を否定します。現代の社会ではそれを「目標管理」と呼んでいますが、提唱者であるドラッカー教授が言いたかった大事な部分【目標は自分で立てて管理する」というセルフマネジメントの観点が欠落しています。
わたしたちは、知識労働者の頭の中を見ることはできませんし、干渉することはできません。知識、意欲、価値観、仕事の仕方、仕事の動機、働く意味、価値観、モチベーションは、誰にも管理できないのです。しかしそうした“目に見えないもの”こそ、現代において成果をあげるカギです。
MBO(Monegement by Objectives and self-control)すなわち「自己目標管理」は、支配による管理から、自らの動機にもとづく自己管理を行うことで、自己実現を果たす方法なのです。
自己管理目標は、人間というものが責任、貢献、自己実現を欲する存在であると前提する。
『マネジメント』より
そもそ自己目標管理は、人の働く動機に深く根ざした道具です。わたしたち人間は、社会のなかで承認されることを欲しています。なぜなら、自分の理想的な姿は社会との関わりを前提に描かれており、現在において理想からどれだけ乖離しているか気にする存在だからです。
つまるところ「目標」とは、貢献の具体的な姿、つまり自己実現の到達点を示すものです。自ら設定した目標をもって貢献するからこそ、組織を通じて成果を生み出し、他者からの承認(評価)を得て、自己充足を得ることになります。
したがって、他者から与えられた目標ほど個人を虚しくするものはありません。役員会議で決められた目標を、現場の人に伝えたところで、情熱をたきつける燃料にはなりません。それどころか、ますます組織との疎外感を強め、仕事の意義を喪失していくでしょう。
退職して何年経っても「あなたのおかげで成長できた」と言われる上司になりたくないですか?
仕事とは一人の人生に関わるものです。人生という長い長い航路のなかで、苦悩・葛藤・気づきを繰り返し、「退職」を決意します。ですから、どうあれ人はいずれ退職していくものです。
ですから「この組織で働き続けてもらうためにマネジメントをする」という考え方は、そもそも個人の価値観を無視しているのでよくないです。
では、部下をマネジメントをする者として、どんな思いで接していけばいいのでしょうか。
親であり教師であれと、ドラッカーは説く。「その者の下で息子を働かせたいか」と問う。部下の人生に関わる存在であれということだ。真摯さのない者をマネジャーにすれば、部下の成長を阻害し、やがて人と組織を破壊する。
『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』(著:佐藤等/編:清水祥行)¥
退職してから何年も経っているのに、昔の部下が「あなたのおかげで成長できました」と言ってくれたら……こんなに嬉しいことはありません。
そのためには、マネジメントという“道具”を正しく使いこなさなければなりません。
すべての始まりは自分自身のマネジメントから!
ここまで読んだあなたは、「けっきょくどうすればいいのか」「退職に追い込まないようにするには何を正せばよいのか」と強い疑問が浮かんでいると思います。
そのヒントは、セルフマネジメントにあります。自分自身をマネジメントすることこそ、実は人にモチベーションを与え、成長の連鎖を起こす秘訣なのです。
そもそも自らをマネジメントできない者が、部下や同僚をマネジメントできるはずがない。マネジメントとは、模範となることによって行うものである。自らの仕事で業績をあげられない者は、悪しき手本となるだけである。
『経営者の条件』より
わたしたち知識労働者は、第三者が管理・監督することはできません。仕事の仕方、仕事の動機、働く意味、価値観、モチベーションは、経営者や上司が与えるものでもなければ、教えるものではないのです。ここがきわめて重要な観点です。たとえば「部下の主体性を引き出してあげなければならない」という発想は、相手の価値観に干渉することを意味します。これはマネジメントのタブーです。
ドラッカー教授は、ベストセラー『経営者の条件』の前書きで次のように書いています。
普通のマネジメントの本は、人をマネジメントする方法について書いている。しかし本書は、成果をあげるために自らをマネジメントする方法について書いた。ほかの人間をマネジメントできるなどということは照明されていない。しかし、自らをマネジメントすることは常に可能である。
『経営者の条件』より
けっきょく、知識労働者は、自分で管理・監督するしかありません。
なんのために生きるのか、なんのために働くのか、自分の強みは何か、自分が得意な仕事の仕方は何か、周囲から求められていることは何か、自分の価値観は組織の価値観と一致しているのか、自分が自由に使える時間はどれだけあるのか、成果をあげるために集中すべきことは何かetc……「汝自身を知れ」と賢人ソクラテスの言葉を実践することこそ、セルフマネジメントの本質です。
セルフマネジメントだけが、知識労働者をマネジメントする唯一の方法なのです。
『実践するドラッカー[思考編]』(編著:佐藤等/監修:上田惇生)
ですから上司であるあなたができることは、あなた自身がまさにセルフマネジメントを実践し、模範を示し、部下の手本となることです。それこそが、「あなたのおかげで成長できた」と言われる上司になる近道です。
リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度な基準、人と仕事に対する敬意を日常の実践によって確認していく組織の精神に勝るものはない。
『マネジメント』より
マネジメント能力は座学では身につけられない
マネジメントは、教わるものではなく、実践を通して身につけるものです。ドラッカー教授も「マネジメント能力は誰かに教えてもらうことはできない」と述べています。
私たちは、学校で教わるように、マネジメントも座学で学べると思い込んでしまいがちです。しかし、マネジメントの教科書はなく、教える先生もいません。
車の運転を例えれば、マニュアルを読んだだけでは運転できません。実際に運転し、失敗を繰り返しながら、感覚を掴んでいきます。マネジメントも同じです。本を読んだり、話を聞いたりしても、実践しなければ何も変わりません。
マネジメント能力は、時間管理、コミュニケーション、意思決定など、様々な要素から成り立ちます。これらの能力は、トレーニングによって身につけることができます。九九を覚えるように、反復練習が重要です。
つまり、マネジメントは、実践を通して、そして継続的な努力によって身につけるものなのです。
マネジメント能力を身につける方法
修得に必要なのは、九九を覚えるときのような反復トレーニングです。以下に、マネジメント能力を身につける具体的な方法を一例としてご紹介します。
①『実践するドラッカー』を読む
ドラッカー教授のオリジナル本は、はじめての人にはとっつきにくいかもしれません。なので、これからマネジメントを身につけたい方向けの本として『実践するドラッカー』シリーズをおすすめします。
②気になった言葉に線を引く
『実践するドラッカー』を手に取ったら、文中の言葉にどんどん線を引いてください。直感でかまいません。「気になる」と思ったところに線を引いてほしいです。
いま気になる言葉は、おそらく、あなたがいま必要としている情報です。つまり、徹底して実践すれば素晴らしい変化が起こるチャンスがあるということです。
③その言葉を徹底的にやってみる
ここからがワクワクする瞬間です。さっそくドラッカー教授の言葉を実践してみましょう!変化が起こるまでたくさんトライ&エラーを繰り返しながら、実践を楽しんでください。
今日から変われる!マネジメントを身につけるために読んでほしい本
①入門書の決定版!ドラッカー実践で成功した18の会社事例を徹底解説
ドラッカー学会の理事であり、ドラッカーの読書会を主催する佐藤 等 先生(公認会計士・税理士)が著者。本書はドラッカーを実践して事業が好転した中小企業の実例を解説しています。ドラッカーの入門として、間違いなく必読の書です。
②成果をあげる思考習慣を身につける一冊
『実践するドラッカー』(通称:実ドラ)は、テーマごとにドラッカーの原理原則が解説されているため、読書会でも大人気の一冊です。とくに『思考編』は、ドラッカーの初心者にぜひ読んでほしい内容となっています。
読書が苦手な人でも成果をあげた「実践するマネジメント読書会」
立ち上げ人は『実践するドラッカー』『ドラッカーに学ぶ人間学』などの著者・佐藤等氏(ドラッカー学会理事)。とくに2010年刊行以来ロングセラーとなっている『実践するドラッカー』シリーズは、なにを隠そう実践するマネジメント読書会®から生まれたものなのです。
なぜかみんなニコニコ!?読書会の面白さ
ここまで読んだあなたは、もしかしたら「難しそう」「堅苦しそう」な印象を受けたかもしれません。
ところが実際は、なぜかみんなニコニコ、とても穏やかな雰囲気です。みんな悩みを抱えているはずなのに……。なぜでしょう?
「この文章なんだけど、うちの会社ではね……」「いまの自分にドンピシャリな言葉を見つけました」「うちの会社の状況にそっくりで驚きました」――参加してみればわかる、読書会の不思議な雰囲気。20年以上続く魅力のひとつかもしれません。
実践するマネジメント読書会®の立役者であり、ドラッカーから“わが分身”と評された翻訳者の上田惇生先生は、読書会の雰囲気について、次のように言いました。
ドラッカーの本の指定された章を読んで、気に入ったところ、気になったところに線を引いてくる。そして、なぜそこに線を引いたかを発表し合う。ただそれだけのドラッカー読書会にみながにこにこして集まってくる。電車で来る人も、車で来る人もいる。札幌に大阪から飛行機で来る人もいる。
『実践するドラッカー [行動編] 』より
私たちの読書会は、単なる本の輪読会ではありません。
ドラッカー教授の言葉を通して、自己成長を促し、より豊かな人生を送るためのきっかけとなる場です。
もしご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度ご参加ください!
詳細については、下記までお気軽にお問い合わせください。
Dラボ
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ドラッカーを学んだ経営者やビジネスマンが実際に仕事や経営に活かして数々のピンチを乗り越え、成功を収めた実例を記事形式で紹介しています。
また、「実践するマネジメント読書会」という、マネジメントを実践的に学び、そして実際の仕事で活かすことを目的とした読書会も行っております。
2003年3月から始まって、これまでに全国で20箇所、計1000回以上開催しており、多くの方にビジネスの場での成果を実感していただいています。
マネジメントを真剣に学んでみたいという方は、ぜひ一度無料体験にご参加ください。
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