【会計事務所では教えない?経営者のためのマネジメント会計入門】第7回 利益は道具である―「会計における利益」ではなく「マネジメントにおける利益」というコンセプトを使いこなす

顧客にとっての価値を数値にしたものが付加価値である。

この連載の第6回目で示した原理です。

マネジメント会計において付加価値の位置づけは特別です。

連載第4回目で、社会にとって重要なのは組織ではなく事業であることを示しました。

それゆえマネジメント会計は事業に焦点が当てられます。

連載第5回目で「事業の定義」を紹介しました。

事業とは市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスである

 

 マネジメント会計が提供する情報は意思決定に役立つことが求められます。この定義は、意思決定の重要なポイントを示しています。すなわち次の3つの要素です。

①事業はプロセスである
②そのプロセスに知識という資源と投入する
③そのプロセスから経済価値が生まれる

利益は付加価値の一項目である

付加価値は③の経済価値と同じ意味です。費用(コスト)は、②プロセスに投入されるものであり、活動という形でプロセスに固定的に用いられています。

付加価値は利益以上に重要な経営指標です。利益は付加価値の一項目にすぎません<マネジメントの原理17>。さらに付加価値には、知識の源泉である人に関わるコストが含まれています。コストの主要な部分を占めるのが人に関するコストです。

さてコストや付加価値を考える場合、「売上高、費用、利益、資源、活動」の関係性についていよく整理して考えることが重要です。<マネジメントの原理20>

そこから導かれる原理に次のものがあります。

コスト管理ではなく、活動管理を重視する<マネジメントの原理21>

マネジメント会計の目的は、事業活動の修正に資する情報提供にあるからです。具体的にはどのような情報なのでしょうか。

ドラッカー教授は利益という道具に目的を与えました。次のそのことを説明しましょう。

税務会計や財務会計では語られない―マネジメントにおける利益の3つの目的

税務会計や財務会計では、利益は次の算式で求められる差額概念にすぎません。

利益=売上高―費用(コスト)

 

しかしマネジメント会計において利益は単なる差額概念ではありません。ドラッカー教授は、という道具に目的を与えました。次の3つです。

利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする<マネジメントの原理14>

利益は、事業の拡大とイノベーションに必要な資金調達の基盤となる<マネジメントの原理15>

利益は、事業活動の有効性と健全性を測定する尺度である<マネジメントの原理16>

マネジメント会計にとって重要なのは、<マネジメントの原理16>です。すなわち事業活動の修正に関する情報を提供するという目的が利益にはあるということです。具体的には、事業の「有効性」と「健全性」をみるために利益という道具を用いるということです(説明は<マネジメント原理16>参照>。

「会計における利益」と「マネジメントにおける利益」とはコンセプトが異なります。コンセプトが異なるとは、その言葉の意味が異なるということです。ドラッカー教授は、マネジメントやマーケティングというコンセプトの意味を変えたように、「利益」というコンセプトの意味も変えました。

マネジメント会計における利益はマネジメントにおける利益というコンセプトを用いています。ドラッカー教授の利益に関する原理原則をよく理解してマネジメントに役立てたいものです。以下の解説を読んで理解を深めましょう。

<マネジメントの原理13>:利益は組織が役割(ミッション)を果たすための条件である
<マネジメントの原理14>:利益は、未来のリスクと不確実性をカバーする
<マネジメントの原理15>:利益は、事業の拡大とイノベーションに必要な資金調達の基盤となる
<マネジメントの原理16>:利益は、事業活動の有効性と健全性を測定する尺度である
<マネジメントの原理17>:利益は付加価値の一項目である
<マネジメントの原理18>:知識とは、情報を仕事や成果に結びつける能力である
<マネジメントの原理19>:企業行動は、利益の最大化ではなく、損失の回避である
<マネジメントの原理20>:利益の増減に関係するのはコストではなく活動である
<マネジメントの原理21>:コスト管理ではなく、活動管理を重視する

 

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<実践するマネジメント読書会®>創始者。『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズ5冊の著者。 ドラッカー学会理事。 マネジメント会計を提唱するアウル税理士法人代表/公認会計士・税理士。 ナレッジプラザ創設メンバーにして、ビジネス塾・塾長。 Dサポート㈱代表取締役会長。 ドラッカー教授の教えを広めるため、各地でドラッカーの著作を用いた読書会を開催している。 公認ファシリテーターの育成にも尽力し、全国に100名以上のファシリテーターを送り出した。 誰もが成果をあげながら生き生きと生きることができる世の中を実現するため、全国に読書会を設置するため活動中。 編著『実践するドラッカー』(ダイヤモンド社)シリーズは、20万部のベストセラー。他に日経BP社から『ドラッカーを読んだら会社が変わった』がある。 2019年12月『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』を出版。 雑誌『致知』に「仕事と人生に生かすドラッカーの教え」連載投稿中

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